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世界が注目!ラスベガスの球体型アリーナ「Sphere」現地レポート #2 【U2ライブ演出 編】

先日、私たちBASSDRUMのテクニカルディレクターであり、ビジュアルアーティストでもある中田 拓馬が、世界中で話題となっているラスベガスの球体型アリーナ「Sphere」(スフィア)をいち早く見学してきました。本日はそのレポートの第2弾として、コンサートホール内部の様子とU2によるこけら落とし公演「U2:UV Achtung Baby Live At Sphere」の演出の一部をご紹介します。

注意:こちらのレポートはライブのネタバレを含みます。

現地レポート#1【構造・アトリウム・外壁映像 編】はこちら

【 Sphereとは 】
2023年9月にラスベガスにオープンした巨大な球体型のコンサート施設。高さ111.5メートル、幅150メートルで、球体の建造物としては世界最大。座席数は約1万8000席で、総工費は約3400億円。外観は5万4000平方メートル、内部には16Kの1万5000平方メートルのLEDスクリーンが設置されている。こけら落とし公演として、U2による「U2:UV Achtung Baby Live At Sphere」が2024年2月まで開催されている。

コンサートホール内部

前回のレポートでも触れましたが、Sphereは7階建てになっています。コンサートホールの座席数は18,600席で、1階がスタンディングエリア、2階以上が客席で、2・4・5階が一般席、3・6・7階はVIP専用エリアです。私は4階にあたる300番台の席でした。各階には席番号に該当する専用の入口があり、他の入口からは自分の席に辿り着けない設計になっています。

中田によるおおまかな図面。左がコンサートホールとその座席番号。右がアトリウム。

ホールに入って最初に目に飛び込んできたのは、巨大な石壁でした。よく見るとその石壁は16Kの超高解像度のLEDスクリーンに映し出された映像で、光が当たる部分と影の部分の再現性が非常に高く、強い立体感が感じられました。天井部分は抜けていて、空が見えていましたが、もちろんその部分もLEDです。

中の階段はかなり急で、落下の心配をしながら席へと移動しました。ホールの上部には通気口があり、涼しい風が定期的に流れていて、音を吸収するような素材で覆われた部分も一部ありました。

会場内では一羽の鳩が飛んでいて、無意識に本物だと思い込んでいたのですが、隣の席の人が子どもに「あれは映像だよ」と説明する声が聞こえ、本物ではないことに気づきました。それほど全てがリアルに感じられたのです。

あり得ない景色や錯覚をつくり出す巧みな演出

開演は20時予定でしたが、U2が登場したのは20時40分頃。1曲目の「Zoo Station」が始まると、目の前の巨大な石壁がゆっくりと十字に割れていき、隙間から強い光が差し込みました。40分以上待たされた観客の興奮は最高潮に達し、一斉に歓声が湧き上がりました。
以下の動画では、ボーカルのボノがそのシーンを見ながら、それが安藤忠雄氏の「光の教会」にインスパイアされたものであると語っています。

U2のメンバーはターンテーブル型のステージ上に立ち、ボノは中央で回転するスタビライザーに乗って歌っていました。ターンテーブルは、U2のコラボレーターでもあるブライアン・イーノ氏のデザインだそうです。
映像の石壁が割れていった時に、全面が真っ白になったタイミングがあり、改めて目の前が本当にLEDスクリーンなんだとわかりました。

2曲目の「The Fly」が始まると、ネオンのような文字が映し出されました。この曲の映像はSNSにもかなり上がっていますが、途中から壁や天井が内側に迫ってきて、空間が正方形に見える演出に変わります。私は過去に球体ドーム映像を作った経験があるので、こういった目の錯覚を起こさせる映像に騙されない自信があったのですが、通常なら絵が粗くなる部分も鮮明に映し出されていたため、本来の丸い形状が認識できなくなりました。実際に目にした映像は、SNSで見るより遥かに迫力がありました。

別の曲では、ボノが上空に浮かぶ大きな風船に繋がった紐を持ち、ステージを歩くという演出がありました。風船は映像で、紐は本物です。この演出が始まったとき、紐は地上から空へと伸びていったので、どうなっているのか不思議に思い見ていたのですが、上部のLEDスクリーンの一部がくり抜かれていて、そこからワイヤーを下ろし、そのワイヤーに絡ませた紐を下から上へと引っ張っていることが分かりました。

ライブ全体を通じて特に印象的だったのは、水面が映し出されたシーンです。水面の上部にメンバーがライブカメラで映されていたのですが、その様子が水面にも写り込んでいました。水面の映り込みは、ステージ上のメンバーの動きに間違いなく同期していたので、リアルタイム処理にはおそらくUnityが使われていたんじゃないでしょうか。

姿を変えていくラスベガスの街が伝えるメッセージ

22時を過ぎた頃に始まったアンコールでは、ラスベガスの街をCGで再現した映像が流れ始めました。その街並みは徐々に解体され、ラスベガスが砂漠の風景に戻る様子が描かれていました。

その後、砂漠にそびえる1本の柱の先から旗の形をした煙が激しく吹き出て、その背後を太陽がゆっくりと昇り、また沈んでいきました。この太陽の光の演出は、まるで実際の外景を見ているような臨場感がありました。

ちなみに、煙の旗はU2と同じアイルランド出身のアーティスト、ジョン・ジャラード氏による、気候変動を訴える作品だそうです。

ラストの曲「With or Without You」で、砂漠の景色は海へと変わりました。そして、その海に浮かぶSphereがゆっくりと近づいてきて、その表面の小さな穴から客席全体が飲み込まれてしまうような映像が映し出されました。穴の中には、セピア色に染まり、石となった鳥や蝶などの様々な生物がひしめき合っていて、最後はその生物たちが色づき、息を吹き返したような映像でパフォーマンスが終了しました。

この映像を手がけたエズ・デヴリン氏によれば、これらの生物はSphereがあるネバダ州に生息する250種の絶滅危惧種だそうです。今回の演出には、こういった様々なメッセージが込められていました。

ライブ終了後、他の席からの視界も確認してみましたが、会場の一番右端の席からもLEDスクリーンはかなり綺麗に見えるだろうと感じました。ライブ中は、メンバーを大きく映し出す演出が多かったため、300番台の私の席からもパフォーマンスを十分楽しむことができましたが、アンコール以降の演出では5階にあたる500番台の席はやや見下ろす形になるので、視覚的に最も楽しめるのは200番台の中央の席だと思います。

他にはないSphereの「体験」

Sphereはプラネタリウムに似た構造をしていますが、その大きな違いは「体験」にあります。外壁が視界に入った瞬間からエンターテイメント体験が始まり、未来的なアトリウムを抜けて、ホール内で圧巻の映像演出を目にするに至るまで、「建物全体でひとつの体験をする」という感覚があります。外壁をLEDで覆っただけの建物や、高解像度のLEDスクリーンを備えたホール単体では、Sphereが持つ独特な体験を提供することはできないでしょう。Sphereには間違いなく他とは一線を画す、今までにない新たな魅力がありました。

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