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【e-skin MEVA】モーションキャプチャーをテクニカルディレクターが一気にレビューしてみた:第九回 インタビュー編

前回、前々回とXenoma(ゼノマ)社で体験させていただいたスーツを、精度、手軽さ等の視点からレビューしました!

これまでの連載記事はモーキャプのレビューのみでしたが、今回はXenoma代表の網盛様に、Xenoma社の立ち上げからe-skin MEVAの開発に至るまでのお話をお伺いする機会をいただきました。
ぜひ最後までお読みください!


工業系の企業が多く入居する施設の一角にラボを構えている

網盛 一郎(Co-Founder & 代表取締役CEO)
富士フイルム(株)入社後、写真フィルムが衰退していく中18年間一貫して新規事業開発に従事。2012年に独立しフリーランスとして大学や企業とともに新規事業開発を行う傍らで、東京大学大学院情報学環・佐倉統研究室において科学技術イノベーション論を研究し、その実践として2014年より東京大学・JST ERATO染谷生体調和エレクトロニクスプロジェクトに参画、2015年Xenomaを共同創業。2022年7月時点で、100件を超える登録特許に発明者として名を連ねる。

米国ブラウン大学大学院工学系研究科材料科学専攻(Ph.D)修了。

株式会社Xenoma
東京大学・染谷研究室/JST ERATO染谷生体調和エレクトロニクスプロジェクトのスピンオフとして設立。スマートアパレル(衣服型デバイス)「e-skin」を通じて、日常生活における楽しみや利便性を向上し、さらに安心安全な社会の実現に貢献するための「予防医療」に繋がる製品やサービスを開発、提供している。

e-skin MEVA開発に至るまで


ーー e-skin MEVAは弊社がこれまで紹介してきたようなモーションキャプチャとはかなり毛色が異なるものだと感じましたが、どのようなコンセプトをもって開発されたのでしょうか?

網盛:
元々我々は東大発のスタートアップで、伸び縮みする導電線を使って布に回路を組めるという技術をもっており、その技術的価値を最大化させる方法として「全身にセンサーを仕込ませた衣服を製品化する」というところから始まった会社なんですね。
会社創業の2015年頃には心電を計るシャツなどが既にありましたが、「体の動きのデータを取るものなんかは周りにまだ無いよね」ということでモーションキャプチャを軸として始めることにしました。

つまり僕らは衣服をセンサー化する会社であり、最初に始めたのがたまたまモーションだったんですね。

Xsens ※1 のような慣性式モーションキャプチャも既に出回っていましたが、「普通の服と変わりなく着ることが出来て、動きの制約もなく着るだけで動かせる」という需要が当時の自分たちのお客さんにも一定量あることが分かっていたのもこのプロジェクトを始めた大きな要因です。

ーー モーションキャプチャが先ではなく、仕組みが先だったんですね。

Xenoma社 網盛さん(写真左)

網盛:
当初は慣性データを取れるスーツを作るのみで、「ゴルフのスイングをした時に発生する歪みセンサーの動き方の違いを使って、スイングの癖を解析する」というモーションキャプチャとしては簡易的なものに留まっていました。
センサーデータは良好な精度で得られていたんですが、そのデータをモーションに変換する技術を私たちはもっておらず、本格的なモーキャプの企画には踏み切れずにいました。

その中でCeBIT(セビット)※2 というドイツの展示会でスーツを展示していた時、突然あるドイツ人の方に「自分たちのブースに来てほしい」と声をかけられ、連れていかれたのですが、そこではXsensを使って自分たちのアルゴリズムでモーションを作っていました。
彼らのグループでは「アルゴリズムはもっているが、地磁気を使わないモーションキャプチャで望む精度のものがなかなか無い」ということで、我々のスーツを目に留めたようでした。こうした偶然もあり、本格的にモーションキャプチャに取り組むようになりました。

※1:Movella社が製造・販売する9軸慣性式モーションキャプチャシステム。
※2:毎年ドイツで開催されていた世界最大級の国際情報通信技術見本市。現在はHannover Messeという展示会に統合されている。

製品の特徴


ーー e-skin MEVAの特徴を教えてください。


網盛:
まず一つは薄さですね。少しでも厚みが出ると、どうしてもその重さで腕を速く振った時にセンサーがズレる恐れが大きくなります。その点、この薄さであれば殆ど何も感じないので、かなり自然に動くことが出来ます
具体的な事例としては、パラテコンドーの選手たちがこれを使ってデータを取っていました。テコンドーのキックってとても速いんですが、その速さでもこのスーツだと何の違和感もないため、正確なデータを取ることが出来ます。


ーー 空手とか柔道のように組み合うスポーツでも役立ちそうなポイントですね。

網盛:
もう一つは「スーツ自体にセンサーが組み込まれている」ことです。普段からモーキャプに慣れていない人でも着ればその位置にセンサーがあるので、簡単に高精度のデータを取ることが出来ます。
うちのスーツは上半身と下半身が分かれていて、下半身だけキャプチャするバージョンも販売しています。これはリハビリなどのメディカル方面を主なターゲットとしているんですが、着るだけでモーキャプが出来るので、センサーの付け方を覚えてもらう必要がありません。


ーー スーツという形で事前にセンサーの場所を決め打ちしていると、ある程度モデルの体格などでズレが発生してしまうように思うのですが、そのズレを抑える仕組みなどがあるのでしょうか?

網盛:
最初のポーズキャリブレーションの際にセンサーの位置を自動推定させています。身長と性別を入力する項目がソフトウェアの方にあって、それを入力したら大体の骨格を統計的に自動生成するようにしています
各セグメント長(関節と関節の間の長さ)を入れる項目も用意しているので、より正確さを求める場合にはそちらを使ってもらえればと思います。

ーー なるほど。むしろその方が全体的な精度は安定しそうですね。

網盛:
そうですね。あと慣性式のモーキャプは9軸でないと使えないものが多いと思うんですが、うちのスーツは6軸で扱うことが出来ます。これは慣性式モーキャプによく見られるドリフト ※3 の問題にも関わってきます。
e-skin MEVAを実際に使ってもらえるとわかりますが、ある程度人間が動いていれば、その運動情報からドリフトを補正する機能がアルゴリズムに入っていて、普通に動いている分にはほとんどドリフトがありません。正確には足の着地、つまり歩行などの足踏み的な動作があれば補正機能が動作します。

僕らのお客さんには工場などもあるんですが、そういった場所は鉄骨が多い関係上、屋内の地磁気が結構乱れてしまいます。
光学式モーキャプなどを工場に設置することは難しいので、工場作業員のモニタリングをしようと思うと、実は6軸で安定して動作をさせることが重要になってきます。

先ほどお話したドイツのチームは、DFKIという人工知能研究所の研究グループからスピンオフしたsci-Trackのメンバーなんですが、彼らは地磁気を使う慣性式のモーキャプは産業用途には向かないということを既に問題意識として持っていて、6軸のアルゴリズムを発展させていたんですよ。
僕らのものも地磁気は積んでいるんですが、動作が不安定になった時に地磁気が原因だとそれを探し当てるのにかなり時間を要するという不安が大きくあったため、6軸で安定して動作するアルゴリズムがあるならすぐにやりましょうということで導入されました。

※3:IMUセンサーが取得する数値のノイズが次第に蓄積していき、立っている位置がズレていく現象。

Xenomaを形作るメンバー


ーー Xenomaさんではモーションキャプチャスーツ以外にもアパレルとして様々な製品を展開されていますが、メンバーや担当範囲の割合についてもお伺いしたいです。


網盛:
社員全体としては30人ぐらいです。日本のメンバーとともに海外のメンバーも在籍しています。アパレルのデザイナーが割合的には多いです
開発スタッフは回路を書いている人がファームも書いていたり、PC用のアプリを書く人がスマホアプリも書いたりサーバー系のアプリも書いたりと、みんな少なからず領域を跨いでいます。

ーー アパレル側の割合が多いのは何故でしょうか?

網盛:
大量生産の際はベトナムで作っているんですけど、少量生産は社内で作っています。試作品もあるので、作ることのできるメンバーの人数が必要なんです。

今後の展望


ーー 現在は主に病院などに導入されているかと思いますが、他にはどのような業界とお仕事されることが多いのでしょうか?


網盛:

今は病院だけでなく、大学の研究系や一部企業ともご一緒しています。研究開発に近いところが主ですね。そういった学会に展示している理科学機器屋さんと同じようなレイヤーで活動しています。
ただし、産業用にも使えるので、先日のCEATEC ※4 では日立さんと一緒にこれを使った作業着を紹介しました。
作業着だとゆったりしていないといけないという問題点があったんですが、日立さん側でディープラーニングを使ったセンサーのバタつき抑制を今のアルゴリズムに組み込んで対応しています。そのような形で企業とコラボしてアップデートしています。


ーー 現在は研究や産業、医療といった方面を中心としているとのことでしたが、今後進出していきたい方面などありますか?


網盛:
そもそもうちの会社のコア技術はハードウェアにあります。その中でソフトウェア側を広げていくのはあまり得意ではないというか、ある程度領域をフォーカスしないと攻めるのが難しいと思います。
ヘルスケア系、特に歩行やメディカルといった分野は自前でやっていきますが、例えば産業用途だと日立さんにうちのハードウェア技術を全部提供した上でソフトウェア部分などはそちら側でやってください、というように分担しています。
もしこのスーツをエンタメ業界に広めたいというご要望をいただいた際には、僕らとしては出来ればある程度必要なソフトウェアパッケージなりをその方にお任せできると嬉しいです

要するに、このスーツを活かして何かをしたいということであれば、そちらにフロントとして立っていただいて、うちとしてはハードウェアだけを提供する、という状況になることは全然構わないと思っています。

ーー センサー自体は既に究極的に小型になっていると思いますが、e-skin MEVAの製品としての今後の展望についてお伺いしたいです。

網盛:

まだセンサーも詰められるところはあると思いますよ。
ただ、そのブラッシュアップに必要なコストと得られるリターンのバランスを考慮すると、介助者の方が非健常者の方に着せやすいスーツの形状にするなど、服飾デザイン的な面からのアプローチの方が選択肢が多く、より大きなリターンを期待できると考えています。
ここをやっていくとレッドオーシャン気味なエンタメ業界に対して、新しい切り口を展開出来るのではないかと考えています。

ーー インタビューにご協力頂き、ありがとうございました!

※4:毎年日本で開催されるアジア最大級のIT技術・エレクトロニクスの国際展示会。


取材を終えて

ここまで様々なスーツを自分自身の体で試してきましたが、今回e-skin MEVAを実際に着てみて、「着用者に対してのホスピタリティ意識が特に強い製品である」と強く感じました。
レビューの方でも書きましたが、特に座った状態での煩わしさが一切無いのがモーションキャプチャとしてとても新鮮な感覚です。
出っ張りのあるセンサーやマーカーを使用するモーションキャプチャだと、座り方を意識して調整しないとセンサーやマーカーが変な当たり方をしてしまって痛かったりするので...

ヘルスケア分野にも展開されているということもあるかと思いますが、モーションキャプチャの会社というだけではなくテック系アパレルの会社であることが、そのホスピタリティ意識に大きく関わっているのだと今回インタビューさせて頂く中で感じました。

他企業とはまた異なる角度からモーションキャプチャに携わるXenomaさんの動向がこれからも楽しみです。


取材・執筆 小松 真朗
執筆協力・撮影:張 釗
校正:鳴海 侑希

BASSDRUMとは

BASSDRUMは、テクニカルディレクターが中心に集まる組織です。さまざまなものづくりに関するプロジェクトにおいて、コアメンバーとして参画し、技術的な側面から寄与していきます。
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