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「state」をリリースしました

ソーシャルネットワークサービスをつくって公開したので、リリースとして文章を書いてみます。

今のソーシャルメディアに対する自分の考え方とか、どういう感じで開発してたのか、みたいなことはいろいろあるんですが、そのへんはサービス利用する上で関係ない情報なので、あとの方に書きます。まずは、どんなサービスなのか、というところのご説明をします。


このサービスの機能

つくったのは、「state」というサービスになります。stateという単語にはいろんな意味があるんですけど、このサービスにおける「state」っていうのは「状態」っていう意味です。「状態」っていう名前のサービスということになりますね。

「自分がいま何をしているのか?(=状態)」をペロッと投稿することに特化したサービスです。

Twitter(X)と何が違うんだ、という話なんですが、かなり違います。

最新の投稿しか見えない。

まず、一番特徴的なのが、「それぞれの人の最新の投稿しか見えない」ということです。たとえば私が「出社した!」という投稿をしたとします。タイムラインに、「出社した!」という投稿が表示されます。その後に、「お昼ごはんでそば食った」という投稿をしたとします。すると、タイムラインに表示されるのは、「お昼ごはんでそば食った」だけになります。前に書いた「出社した!」の投稿については永遠に見れなくなります。

言葉を変えると、Twitterなどの一般的なソーシャルネットワークサービスだと、「1ユーザーにつき複数投稿」なわけですが、stateは「1ユーザー1投稿」になります。

さらに言葉を変えると、「投稿が上書きされるTwitter」みたいなことでも良いかも知れません。

フォローはできる。が、フォロワー数は表示されない。

他のユーザーをフォローすることはできます。フォローすると、タイムラインにその人の投稿(状態)が表示されます。

が、フォロワー数は表示されません。あなたが何人にフォローされているか、みたいな情報は一切表示されませんし、自分でもわかりません。

今のところ、フォローしていない人が最近投稿したものも「最新」のタブで見れるようになっていて、そこからフォローする人を探せたり、友達のアカウントをIDから検索できたりしますが、ユーザーが増えてきたら、プロフィール機能を充実させて、プロフィールからフォローしたい人を検索できるようにしたいと考えています。

Likeはできる。リツイートはできない。

投稿1つ1つは、ボタンになっていて、投稿をタップするとその人の投稿に対してLikeする、ということになります。Likeすると、背景に「シュワシュワー」っとしたアニメーションが表示されますが、後ほど別途説明します。

ただし、リツイートはできません。後ほど考え方のところで書きますが、人の投稿を拡散したりとかはできないので、炎上とかはしないようになっています。

写真は投稿できる。しかし横長。

写真の投稿はできます。しかしかならず横長に切り抜かれるようになっています。これは意図的にやっていることなんですが、意図は後半で説明します。

見られていることがわかる。Likeされていることもわかる。ただし、ふんわりしかわからない。

タイムラインの背景には、ふわ~っとした小さいつぶつぶやしゅわ〜っとした大きなつぶつぶが飛び交ったりします。これは何なのか、というと、小さいつぶつぶは、「最近誰かに投稿が見られたよ!」ということです。見られた数が多ければ多いほどつぶの数が増えます。1粒1粒の色は、見てくれた人のテーマカラー(これはアカウントをつくるときに決められます)になっています。大きいつぶつぶは「最近誰かがLikeしてくれたよ!」ということです。これも数や色のルールは同じです。

というようなサービスです。現在は、iPhone用とAndroid用が公開されています。ただし、現段階では招待制とさせて頂いていて、既に利用されている方から招待コードを受け取らないと始めることができません。公開ベータテストには、多くのテストユーザーさんにご参加を頂いたのですが、現在のテストユーザーの皆様には招待コードが配布されていますので、そこから徐々に広げていければと考えています。

とか言いつつ、私と個人的なつながりがある方にはテストも兼ねてご利用頂けると嬉しいので、DM等頂戴できれば招待コードをお出しすることはできるかと思いますので屈託なくご連絡を頂戴できれば幸いです。

Android版はこちら。

iPhone版はこちら。

このサービスの考え方

というところで、今度は、このサービスがどういう考え方・方向性でつくられているのか、について書いてみます。

平たく言うと、このstateは、

  • 炎上しない、牧歌的なソーシャルネットワーク

  • ヒエラルキーが全くないソーシャルネットワーク

  • 言論空間をつくれないソーシャルネットワーク

ということになります。この3つは実は似たようなことを言っていて、ヒエラルキーが全くなければ炎上リスクは下がるし、プラットフォームは牧歌的になるよね、という話ではあります。

ヒエラルキー、って言うと難しいんですけど、要するにユーザー間に優劣がないということです。

Twitterをはじめとした既存のソーシャルネットワークは、とにかくユーザー間に優劣をつけています。

たとえばフォロワー数。「インフルエンサー」という言葉が生まれて久しいですが、インフルエンサーの「影響力」の指標はフォロワーの数、YouTubeなんかだったらチャンネルの登録者数、みたいなことになるかと思います。

とにかく数字で優劣がついてしまう。フォロワー数20万人のインフルエンサーと10万人のインフルエンサーとでは、「影響力」=「戦闘力」に2倍の差があるわけです。「自分はあの人より影響力がある・無い」みたいなことが顕在化します。

Like数やリツイート数なんかも数字で顕在化する指標です。あの人の投稿より自分の投稿のほうがもてはやされていることが随時数字で示されます。

数値化はされませんが、投稿した写真の「映え」を競うみたいな構造も優劣の形成につながります。写真は「あの人は自分より良いものを食っている」「あの人は自分が会ったことのない有名人と仲良し」みたいな、数値化されない優越の拠り所になります。

ソーシャルネットワークの仕組みが成熟し始めてからは、みんなとにかく影響力を求めるようになりました。人よりも卓越した影響力を得るために、自分の発信や言動をソーシャルネットワークに最適化するようなことも多く起こりました。「映える写真」を撮るためにどこかに旅行に出かける、なんていうのは、以前はなかった行動様式だと思います。

既存のソーシャルメディアは、こんなふうに優劣をつけることで競争を煽ることで、サービスの中毒性をつくってユーザーが戻ってくるような仕組みをつくっています。

こういったユーザー間の優劣、投稿の影響力の重みの偏りをつくることで、副作用も生まれます。たとえば「炎上」です。既存のソーシャルメディアは、拡散装置として「収穫逓増」の仕組みを持っています。難しい言葉ですけど、「声がでかい人の声がもっとでかくなる」ということです。

「炎上」という言葉はうまい言葉で、炎というものはどんどん広がっていくものです。良い形であれ、悪い形であれ、話題化したものはさらに話題化していく、というのが既存のソーシャルメディアが形成したシステムです。

実際、Facebookなどのプラットフォーマーが、こういった競争原理を煽るアルゴリズムを推進していたことなどは内部告発されていたりもします。

こういった既存のソーシャルネットワークに対して、このstateの作者である私がどういうフラストレーションを持っていたのか、みたいなことは後述しますが、総じて、ソーシャルネットワークは「しんどいもの」「疲れるもの」として認知され始めていて、Twitter(X)のドラスティックな変化もあって、いろいろな代替案が提案されているのが現状だと思います。

このstateは、そういった既存のソーシャルネットワークに対する「代替案」の1つです。その中でも、徹底して「ヒエラルキー排除」にギアを入れたサービスということになります。

上述の「機能」の部分でご説明しましたが、フォロワー数もLike数もリツイート数も、数値化される要素は徹底して排除しています。ただ、放っておくと、誰にも見られていない孤独なネットワークになってしまうので、「見られていることは数値化されずにふんわりわかる」という状態になっています。

写真がなぜ横長なのかというと、開発する中で、「内容はわかるんだけど、映えづらい比率」というのを研究した結果、この3:1という比率になりました。こういうサービスの場合、サムネイルの写真は拡大できるのが普通ですが、拡大すると細かいところが見えてしまうので、そのへんの機能も敢えて封じています。

そして、stateでもう1つ排除しているのは「言論空間」です。stateの投稿で許されている文字数は100文字、Twitterの140文字よりも少ない文字数です。その上で、投稿を重ねることで、いわゆる「連続ツイート」的に長めのメッセージを発信することができなくなっています。新しい投稿を行うと古い投稿は消えてしまいます。

これにより、stateで投稿できるのは、あくまで100文字以内で表現できる限りの自分の状況や考えていることに限られ、とかく長めになりがちで、議論を読んだりしがちな「言論」みたいなものを展開することができないようになっています。

既存のソーシャルネットワークというのは、ともすれば「参加者総コメンテーター状態」というか、たとえば芸能人が不倫をしたらそれに対して何がしかの意見を述べなければいけない、みたいな面もあったかとは思うのですが、そもそも往々にしてそんな意見は求められていませんし、争いのもとにもなってしまいます。

以上のような、既存のソーシャルネットワークが構造上・ビジネス上逃れられなくなっていたリスクを極力排除して、ダラダラと心理的安全性の高い気楽な状態で、自分の状態・思っていることを空中に向かって投稿できるサービスを目指して、stateはつくられています。そのへんをもって、stateを「ヒエラルキーのない牧歌的なソーシャルネットワーク」としています。

個人的な思惑と、これをつくるにあたっての自分の都合

そもそもなんでこんなものをつくるのか、というと、私自身は、Twitterやfacebookなどのソーシャルネットワークが登場した段階で、それらに対して比較的批判的なスタンスを取っていました。

前述の通り、「収穫逓増」するシステム、つまり、声がでかい人の声が届きやすくなる仕組みというのは、実はインターネットが登場する以前から存在したマスメディアと同じ構造を持っています。

テレビや新聞しかなかった頃は、そういったメディアに影響力が集中していました。ゆえに、そこで展開されている情報は世の中のマジョリティ・最大公約数に向けたものであり続けました。万人受けする情報が優先された、ということですね。

声が小さい人、マイノリティな人、人と比べて変わっている人、そういう人たちは文字通り影なる存在でした。それをドラスティックに解消したのがインターネットの登場で、インターネットという「誰でも世界に向けて表現・発信できる場」の登場は、今まで自分の声や考えを人に届ける手段を全く持たなかった人たちにとって、画期的な変化でした。これは私個人の実体験でもあります。

ところが、「フォロワーが多い人が偉い」ソーシャルネットワークの世界では、万人受けする情報を発信するインフルエンサーの声がより多くの人に届く、前述の「収穫逓増」な状態に回帰してしまいました。インターネットの突然の登場に対して、それをうまいこと使いこなせなかった人類が生み出してしまったマスメディアのリバイバル。それがソーシャルネットワークの正体だったのではないかと思います。

ゆえに、私は、マスメディアが支配的な90年代までの状況から、インターネットの登場〜普及を「進化」と捉えたのに対し、その後のソーシャルメディアの登場と普及を「退化」というか、「ディストピアましっぐら」くらいに捉えていました。

そこで、2016年に、前職のPARTY社のプロジェクトとしてリリースしたのが「mnmm(ミニマム)」というサービスで、この時点で、「ヒエラルキーを排除したシンプルなソーシャルネットワークサービス」というコンセプトは構築していました。

この「mnmm」は、とても惜しいプロジェクトではあったのですが、今一歩のところで常用したくなるユーザーエクスペリエンスにはならず、サービスを停止しました。

「state」は、「mnmm」で目指した状態をもう一度別の角度から目指したサービスです。結構違うところもありますが、mnmmの進化版と言っても良いです。

今回、「state」を開発することにした背景には個人的にも環境的にも、様々な要因があります。

1つは、特に今自分が所属している会社・団体であるBASSDRUMの立ち上げ期ということになるんですが、ここ数年、立場上、クライアントとの向き合い・コンサルタント業務に近い「しゃべり仕事」がめちゃくちゃ増えていた。ということです。

そういう状況ですから「お前はつくり手ファーストみたいなことを言っておきながら自分では何もつくってねえじゃねえか」などと揶揄されることもありました。

ところが、技術実装をディレクションするという私の主たる仕事は、ちゃんと自分自身もつくる能力を維持しておかないと、ピントのズレた中間搾取業者と化してしまう傾向があって、日々お客様としゃべっているだけでは価値を失っていく仕事なのです。

ゆえに、「ちゃんと自分でものをつくる」必要がありました。

2つ目としては、「mnmm」の反省がありました。

「mnmm」の場合は私は立場としてはディレクターであり、プロジェクトも会社の自社事業としての色合いが濃かったものです。ゆえに、「もっとこうしたい」「こういう追加機能が欲しい」みたいな要望を私が持っても、会社やエンジニアに理解してもらえないと(そして、リソースを捻出してもらえないと)進めることができないという問題がありました。

今回は、前述の通り、「ちゃんと自分でものをつくる」必要があったわけなので、コンセプトもデザインも設計もフロントエンド実装もバックエンド実装も(今のところ)すべて独力でやり、自分でコントロールできるようにする、という考え方で、「一人で全部やるプロジェクト」として進めることにしました。

3つ目は、イーロン・マスクによる買収に伴うTwitterの混乱。もそうなんですが、それも含んだソーシャルネットワークに対する価値観の変化です。

そもそもTwitter(X)はイーロン・マスクに買われる前からタイムラインの表示アルゴリズムが歪なものになって行っていましたし、facebookなんかは、内部告発を始めとして喚起された個人情報の扱いに関する問題も相まって、若い人に全然使われていないだけでなく、欧米の友人などは恣意的に離脱していくような状況。ソーシャルネットワークは総じて曲がり角を迎えているのが現状です。

小さくっても一石を投じる、というか、文句を言うのではなく代替案を提案するタイミングとしてはちょうど良かろう、というのがありました。

4つ目は、つくっている私自身が、このサービスが流行ると全く思っていない、ということです。

このサービスをリリースすることは、BASSDRUMという会社・団体にとっては「こんなのもつくれますよー」という能力営業ツールにはなるでしょうし、清水の能力向上には資するものなので、利用価値はあることだとは思うのですが、別に「新しいサービスを開発して一山当てるぞ!」とか「ベンチャーキャピタルからお金を調達して上場するぞ!」とか、そういうモチベーションは一切なくて、純粋に「こういうものをつくりたくて仕方ないから」つくっています。

構造的にも、ドーパミンを分泌するような仕組みにはしていません。どちらかというとオキシトシンを分泌する方向を目指しています。刺激をつくって再訪を喚起するほうが簡単ですが、それをやっちゃうと本来の目的とズレますし、やっていません。ゆえに、たぶんこのサービスは流行らない。

しかし、そこがポイントだよなー、とつくっている途中で気づきました。

ソーシャルネットワークを中心としたメディア界隈について、上記のように面倒なことを考えつつ、既存のソーシャルネットワークの批判をしつつ、同時に好き勝手な対案を実装して公開できる人って、世の中んそんなにいないんじゃないか、ということです。

メディアに対して批評をできる人はいますし、新しいサービスのコンセプトをつくれる人もいます。フロントエンドの実装をできる人もいます。バックエンドの設計やUXの設計をできる人もいます。

が、一応ではありますけど、全部一人で好き勝手にできる人って自分くらいしかいないんじゃなかろうか。ということに途中で思い至りました。

そう考えると、「流行らないだろうけど既存のソーシャルネットワークへの批判として新しいサービスを勝手に開発して発表する」という「芸」は、意外にも自分の作家性にすらなってしまう可能性がある、と思ったのです。

私は今まで、クライアントワークを中心にものをつくってきた人間なので、自分の嗜好や思想に基づいた「作品」をつくることは(皆無ではないですが)そんなにありませんでした。ゆえに、自分のことを「作家」とか「アーティスト」とか思ったことは全くありませんでした。

しかし、今回「state」をつくる際に試したアプローチは、実は結構アーティスト的なアプローチなのではないかと考えるに至りました。

「アート」とは、「こういう考え方・やり方もあるよね」という提案性のある活動だと思っています。

そういう意味では、今回の制作・開発は、自分にとって「作家的な自意識」を自覚するきっかけになり、今後生涯何がしかのものをつくっていく上で、とても重要なターニングポイントになったと思います。

「state」は、新しい、ヒエラルキーのない牧歌的なソーシャルネットワークサービスであると同時に「アート作品」と言えるのかもしれません。

stateの今後

そんな「state」ですが、今後のアップデートプランは考えているものの、まずは招待制という枠組みの中で徐々に参加者を増やしていき、ユーザーの反応を見ながら手を入れていければと考えています。

毎日少なくとも30分くらいはこのプロジェクトにリソースを割いていきたいなと思っているので、徐々に(自分なりに)改修を行っていければと思います。

ユーザーがどのくらいついて、どのくらい盛り上がるかにもよりますが、場合によっては自己資金を突っ込んでデザインを整備したりとか、広告を出してみるとかやってみようかなーと思っていますが、上記の通り、自分の作品として好き勝手つくっているような面が多分にあり、外部から資金を入れたりして方向変わっちゃうのは違うかなーと思っています。

と言いつつ、永遠に一人で運営するわけにもいかないので、ユーザーの動向次第で、運営面で助けを求めるかもしれません。

本業へのフィードバック

この「state」を開発している清水は、BASSDRUMという、テクニカルディレクターの集団の中で仕事をしているのですが、立場上営業活動などをしている中で、意外にこういった感じのサービス設計や開発に関わっていることが認知されていないなーと認識することがあります(展示物やXRなんかの印象が強いのかもしれないです)。

そういう意味では、こういった小さいサービスをちょこちょこリリースすることで、そういったケイパビリティを見せていければ良いなあと思っています。ゆえに、会社に甘えて、会社のアカウントからリリースをさせて頂いています。

そんなわけで、拙いサービスではありますが、現段階でテストをして頂いているユーザーの皆様は結構じわじわと使い続けて頂いているので、たぶん好きな人は好きなサービスになっているんじゃないかと思います。気に入って頂けることを祈っております。