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デジタルクリエイターの老後と、空が動くアプリ

私が一番最初にデジタル制作の仕事に関わったのは、以前書いたようにホリエモンの当時の小さい事務所でバイトを始めた1998年とかのことだ。雑誌のデザイナーなどを経てがっつりインターネットを中心としたデジタルのものづくりの仕事を始めたのが2005年とかだと思う。

で、私はいわゆる「ナナロク世代」というやつで、いわゆる、大学生くらいのちょうど社会に出る直前にインターネットというものが登場して人生が変わってしまったクチであって、新卒の年齢からインターネットの仕事をしている第1世代ではある。

ということなので、今自分がやっている「テクニカルディレクター」という、技術ものづくりの現場を取り仕切る仕事も然り、そんなに先人・ロールモデルがいない中でやってきた感がある。

いま、私は44歳になったところで、これは微妙な年齢だ。業種によっては「中堅」の年齢なんだろうし、「画家」とか「政治家」とかだったら「若手」ということになってしまう。で、こと、「テクニカルディレクター」という新しい仕事の領域になると「ベテラン」ということになってしまう。

そもそもベテランのテクニカルディレクターなんてほとんどいなかったわけで、ある種、「ベテランテクニカルディレクター第一世代」、上の世代にはあんまり人がいるわけでもない。インターネット以降のデジタルの仕事なんてまあ大体がそんなものだ。

ある種、今までも、ここから先も「未体験ゾーン」を歩いてきたところがあってそれはそれで愉快なことではあるが、何はともあれこのまま放っておくと6年後には「50代テクニカルディレクター」というさらなる未体験ゾーンに入っていくし、16年後には「還暦テクニカルディレクター」となる。さらに言うと、「デジタルクリエイター」なんていう仕事は実に最近の仕事なわけだから、その後には「デジタルクリエイターの老後」という、うまくありようが想像できない状態に自分を置くことになる。

今は、多くのやり甲斐のあるお仕事をやらせて頂いていて、ひたすら楽しい。が、それでいて20年後に自分が何をやっているのかあんまり想像がつかない。

技術の世界というのは流れの速い世界だ。経験に基づいたディレクションの熟練というのはもちろんあると思うのだが、それは最新技術の知識なりとセットでなくてはついていくことなどできない。60を超えた自分が、果たして今と同じ仕事をしていることができるのかは全然わからない。2040年、60を超えたテクニカルディレクターに需要があるのかは想像できない。自分がやっているテクニカルディレクターという仕事は、ある種総合力の仕事なので、老後もずっとやっていくのはちょっときついのではないか。

一方で、私の場合、老後というか、この後、50代・60代・70代・80代に向けてやっていきたいことはたくさんあるし、20年後こんな仕事をしてこんな生活をしていたい、というのは結構イメージしているところがある。

今後、まだまだネットワークインフラも拡充されるし、宇宙系の開発なんかが進むと、本当にどこででも仕事ができるようになる。私など、そもそもニューヨークであろうと東京であろうとどこであろうとわりと同じように仕事をしているし、体験装置の現場作業とかでない限り、わりと既にどこででも仕事ができるようになっている。

20年後というか、それよりも近い未来には、どこか好きなところに住んでOKな時代になる。じゃあどこに住みたいのかというと、本当はフィンランドの北の方で毎日サウナに入ってととのい続けていたいのだが、妻はわりと日本にいたい人だし、冬季うつも嫌だよね、などと言っているので、日本のどこかということになるだろうが、何はともあれ都会に住む必要はないわけなので、どこか空気が良くてあんまり地域のコミュニティに関わらなくても良いような場所に住みたい、ということになる気がする。田舎に住むのは良いのだが、地域の付き合い的なものはとても面倒なので、わりとそっとしておいてくれるような場所だと嬉しい。

そういった場所に住んで何をしたいのかというと、まずは燻製だ。年を重ねると突然燻製をやり始めるおじさんというのは結構いるが、私も、毎日あらゆる食材を燻製している50代の自分以外想像し難い程度に燻製願望がある。

この話をすると妻からは非常に嫌な顔をされる。「家の床のそこかしこに燻製用のチップが撒き散らかされているさまが目に浮かぶ」らしい。「燻製するなら別居する」とすら言われる。しかし、ちょっと田舎に引っ越して、外ですべてやることにするのならまだ良いのではないか。

卵を、チーズを、明太子を、あらゆるものを燻したい。

こんなことを書いていて、私は燻製未経験だが、ここのところずっと、燻製道士(実は何回かお会いしたことがある)の本を眺めてはイメージトレーニングを重ねている。この夏は日本にいることになるので、会社のビルの屋上で燻製デビューしようかなと思っている。

そしてさらにイメージしているのは、家の外で、食材が燻されるのを待ちながら、その横に作業スペースをつくって、作業している自分だ。

そこで自分は何をしているのかというと「プログラミング」だ。

私はいま、どちらかというと技術者とビジネスオーナーやクリエイティブの間に入ってコミュニケーションをつなぐディレクター・技術監督の仕事をしているが、やっていて一番楽しい作業は間違いなくプログラミングだ。プログラムをダーッと書いて動かして、「動いた!」って言ってニヤニヤするのが何より一番好きだ。

今の仕事の中でプログラムを書くことはもちろんなくは無いが、放っておくとずっとお客さんと打ち合わせをする羽目になったり企画書書いていたりすることになるので、なかなかプログラミングの時間は取れない。

1日の中で、どうにかそういった非プログラミングワークを早めに終わらせて無理くりプログラミングの時間を作って作業をする。プログラミングというのはある種スポーツみたいなところがあって、やっているうちにいわゆる「ゾーン」に入って、脳に変な汁が出てくる。気づいたら予定時間を大幅に超えてすごい時間が経っていることなんかもある。

企画書や構成資料つくったり、あるいは見積もり書いたりとかそういう仕事をしていると、「あーまだ●時か」なんていうこともあるし、打ち合わせばっかりやっているような日はひたすら長く感じられるが、プログラミングに集中できる日は、一瞬で、気づいたら終わっている。

それだけ集中して時間を忘れられるということは、要するに楽しいのだ。

プログラミングというと、何か小難しいものに感じる人も多いかもしれないが、長年やっていると、ある種「手癖」でいろんなことができるようになってくるところもある。

何かつくりたいものを前にして、わからないところをインターネットで調べたりしながらコードを書き進めていく。1回では動かない。エラーも出たりする。何が悪いのかなと思って調べ直したり細かいところをいじったりする。いろいろやっているうちに、「動いた!」という瞬間がやってくる。この瞬間が、気持ちいい。プログラミングの作業は、この気持ちいい瞬間の連鎖で構成されているところがある。プログラミングだけではなく、回路とかエンジニアリングの領域も、似たカタルシスはあると思うが、プログラミングは、なんというか「タタタタタタタタタタタ」と書いて「ターン!」と起動して「動いた!」となる、この小気味よいリズム感で進んでいくようなところもあるので、自分の場合はそれが性に合っている感じはある。こういうリズム感は、もしかしたら書くプログラムのタイプによってはちょっと違うのかもしれない。

今の私は行きがかり上と何らかの使命感もあるので技術監督業をしているが、20年後には一人のプログラマーとして、職人として生きていきたい。それも、できれば、老後の箸休めとかではなくて、きちんと新しいものを生み出す人でありたい。そのために今からコツコツ、新しいスキルを学んでいきたい。例えば、3D系のプログラミングとか、ずっと興味あるのにあんまり得意じゃないので、ちゃんと操れるようになりたい。

で、ここしばらく、ウィルスに感染して回復したくらいの4月くらいから、ニューヨークでわりと暇になっているクリエイターたちで集まってアプリをつくることになって、プログラミングを担当していた。

最初は、空に浮かぶ雲を写真に撮ると、その雲の形に似ている動物とか物を表示してくれる、みたいなアプリにしようかと思って結構ちゃんと動くプロトタイプまでつくっていたが、それだと天気によって使える日が少ない。やっているうちに、ちょうどこういう時期だし、窓の外を眺めるのが楽しくなったり、外に出れるようになったらそれがもっと楽しくなるようなものをつくれないかという話になって、いわゆる機械学習で空をセグメンテーションして、撮った写真の空がGIFアニメに変化する、「空アニメアプリ」をつくることになった。

家にこもって、いつもの仕事をやりながら毎日少しずつ機能検証をして、いろんなライブラリを試した。プロトタイプができたらそれを洗練させてユーザーインターフェースを組み込んだ。GIPHYのAPIと連動して、読み込んだ動画のフレームを間引いて、処理速度を調整した。何度も、「タタタタタタタタタタタ」、「ターン!」した。

こうしてできたのが「Magic Sky」

空が入っている写真を撮ったり選択したりすると、空の部分がGIFアニメに変化して、「空だけ動いてる写真」をつくることができる。GIFアニメは、GIPHYで検索して好きなものに変更することができるし、GIFアニメの代わりに自分で撮ったビデオを入れたりもできる。こんな感じのアニメーションができる。

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できた映像は、 ビデオファイルとして書き出すこともできて、それをinstagramのストーリーズやTwitter、Tiktokなどにもシェアすることができる。テストの過程でも関係者がキャッキャ言いながら遊んでいたので、結構楽しいアプリになっているのだと思う。

部分とかじゃなくて、あるいは検証段階のプロトタイプではなくて、プレゼン用のデモでもなくて、公開用のアプリ1つを全体的に設計して組み上げたのは久しぶりだったので、すごく楽しくて、心の健康に良かった。「ああ、これが自分が20年後にやっていたいことなんだよなあ」とすごく思った。

そんなわけで、「自分は20年後も、田舎で燻製やりながらこんなようなことをやっていたいですよ」というような楽しいプログラミング・実装ができたので、是非、iPhoneユーザーな方はインストールして遊んで頂ければと思う。アメリカでは、TikTokユーザーを中心に徐々に広がりつつある。


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この記事は、テクニカルディレクター・コレクティブBASSDRUMのマガジン「note.bassdrum」の記事として書かれたものです。是非、BASSDRUMのnoteアカウントをフォローしてください。