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Flasherの逆襲

「Flasher」というと、日本のデジタルクリエイティブ業界の一部では、「Adobe(古くはmacromedia) flash」を使って何らかのコンテンツ・仕組みをつくる人たち、ということになる。そもそもAdobe flashすらよくわからないという読者もいるかもしれないので、Wikipediaから抜粋しておくと、

Adobe Flash(アドビ・フラッシュ)は、かつてアドビが開発していた動画やゲームなどを扱うための規格、およびそれを作成・動作させるアプリケーション群。かつてフューチャーウェーブ・ソフトウェアと、それを買収したマクロメディアが開発していた。

Wikipedia

というもので、ウェブブラウザのプラグインとしてflashでつくったものを再生するプレイヤーが普及していて、それを使うと、(当時の)単純なHTML等では表現できないアニメーション表現や複雑な処理も可能だった。

当時のデジタルクリエイターたちはこぞって、このflashを使って様々なコンテンツを生み出してきた。それが「Flasher」だ。アニメーションやビジュアル表現だけではなく、バックエンドシステムとの連動やバイナリデータの処理まで、とにかく様々なことができる仕組みだったので、当時のFlasherたちは、あの手この手で新しい表現をつくり出し、切磋琢磨していた。

かくいう私も「Flasher」のひとりであり、デジタルクリエイティブの世界に入っていくきっかけも、Flashでウェブサイトをつくる仕事からだったし、この世界に入って初期の数年は、Flashでつくられたものを中心に制作を行っていた。

で、「Flasher」は日本の一部で使われている、みたいなことを冒頭に書いたが、これは単純に言葉の問題で、英語だと「Flasher」って「露出狂」という意味になるので、「Flashで何かをつくる人」という意味ではほとんど使われない言葉だ。なので、「Flashで何かをつくる人」という意味でのFlashクリエイターは、日本に限らず世界中にいる。

今回のテーマは「ヴィンテージ・テクノロジー」。この「Flasher」=「Flashクリエイター」がその「ヴィンテージ・テクノロジー」ということになるが、Flasherたちは技術というよりは人材なので、「ヴィンテージ・ヒューマンリソース」ということにでもなろうか。

先日、ニューヨークの技術系クリエイターのパーティーのようなものに出席した際、Unreal Engineをつくっている方とか、空間系で有名なハードウェアスタートアップをやっている方とか、お会いする人の中の結構な割合の方々が、「あ、私もともとFlashクリエイターだったんだよ」という方々で、なんだったら当時Big SpaceshipとかNorth Kingdomとかで、私たちが憧れまくっていた超すごい作品を生み出していた張本人たちだったりしてびっくりする。Flasherの方々は今でも様々な分野で活躍しているのだ。Flashウェブサイトやソフトウェアの、仕組みの構築のノウハウなどは今の世に至るまで受け継がれているし、価値を生み出している(それは、Flasherである私自身、Flashと関係のない仕事をやっていても感じる)。

一方で、当時のFlasherたちがしのぎを削ってきた別の領域、細かいアニメーションのチューニングやインタラクションの気持ちよさの追求、みたいな職人芸は、現在ではあまり見える形で目にすることができない。Flasherたちは、そもそのそういう能力を鍛えてきていたわけだが、今ではそれを発揮する場所があまりないのだ。つまり、そういった職人能力は「死蔵」されてしまっているとも言える。

しかし、それは実は単純に、需要と能力のマッチングがあんまりうまく行っていないだけのような気がしないでもない。

コロナ禍も経て、タブレットやPCでの教育コンテンツは大きく存在感を増し、世界的に数も増加している。しかし、どんどん生み出されるそういったコンテンツの「細部」、アニメーションやボタンの「押しごこち」のようなものが、「元Flasher」である私からすると、「もっとどうにかなんないかなー」というレベルだったりするのだ。そういった領域で、Flasherたちが死蔵している職人能力をぶちかましてくれたら、もっと世の中は豊かになるのに。なんだったら子供たちの教育にも寄与できるのに。などと思うことが最近多い。

デジタルコンテンツのカバー領域がウェブサイトのみならず、教育の領域だけではなく、様々な分野に広がる中、そして各々の領域でコンテンツの成熟が求められていく中、Flasherが活躍できる場所って実は増えていっているのではないか。

私は、そんな「ヴィンテージ・ヒューマンリソース」であるFlasherに、いまだからこそすごく大きな可能性を感じている。日本のみならず、これからコンテンツを必要とする国々でも、Flasherがその職人能力をぶん回す場はどんどん生まれつつあるように思える。もしそうならば、私も私で久しぶりにぶん回したいし、当時の仲間達がぶん回せる機会を創出していきたいと思う。


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