照明を制御する
高精細なディスプレイやプロジェクションマッピングも魅力的ですが、照明を使った作品も他とは異なる立体感や没入感を持った作品制作が可能です。
これらの作品は多くがDMXというプロトコルで作られています。
DMXとは
DMXはライブや舞台、クラブの演出の制御で広く使われている通信方式です。1度に最大512チャンネルの制御が可能で、デイジーチェーンといって1本のDMX信号線で機材を数珠つなぎにしていくことが可能です。終端にはターミネーターと言われる終端抵抗を設置するのが一般的です。
ターミネーターはなくても動く場合が多いですが、それほど高価なものでもないので用意しておいた方が良いでしょう。
端子形状は5ピンと3ピンがあり、3ピンはマイクのプラグ/ジャックと同じXLRコネクタという端子規格になっています。一応正規の規格としては5ピンが正しいらしいのですが、現場で機材を見ると一部の高価な機材以外は殆ど3ピンな気がします。
DMXは信号のみを取り扱うため、電源は別で取る必要があります。そのため、通常のDMX機器は電源とDMXの2本の配線を結線する必要があります。
(参考イメージ)
TIPS
DMXはRS485という通信規格をベースにしています。そのため、RS485通信を使えるマイコンやチップを使えばDMX機器が自作できます。興味がある方はひつじさんの講義資料などに具体例が掲載されています。また、このRS485という規格はエレベーターなどを制御しているPLCで使われているModbusと言われる規格でも採用されています。
主な機材
かなり様々なDMX機器があり、値段もピンキリです。国内だとサウンドハウスを見てみると良いでしょう。ネット通販も可能です。
スポットライト
劇場やクラブハウスにあるスポットライトもDMX対応しているものがあります。
ディマー(調光器)
シンプルな裸電球など、電圧で光量を制御できるデバイスは調光器でコンセントに流すワット数を調整することで明滅を制御できます。価格が安いものが多く、テスト用に買うのにおすすめです。
パーライト
クラブでよく見るパーライト。色とりどりの色を出力します。
ウォッシャー
パーライトと機能は似ていますが細長いタイプをウォッシャーと言います。
壁や床など平面を染め上げるのに使われます。
ムービングヘッド
ムービングヘッドは2軸(パンとチルト)を制御することが可能なスポットライトで、ライトの照射方向をリアルタイムにコントロールできます。
ものによってはスポット径(ライトの照射範囲の大きさ)やカラー、ゴボ(ライトの前にステンシルを入れることでその模様を照射する)なども制御できます。
レーザー
クラブで利用されているレーザーもDMX制御が可能です。レーザーを扱う場合はその強さに注意してください。クラブのレーザーは非常に出力が強く、直視しつづけると失明する危険があるものがあります。
展示する際はその機器の強さ(CLASS4とかCLASS3Bとか表記されています)に合わせた展示を行ってください。
TIPS
レーザーはDMXだと細かい制御ができないため、プロ用の機材だとILDAという規格を使ってPCから細かく制御するものが一般的です。
ストロボ・フラッシュライト
照明の中でも点滅に特化したのがストロボ・フラッシュライトです。一般的に他の照明よりも輝度が高く、明るいです。ただし消費電力が高いので、設置時には電気容量に気を付けましょう。一般的な家庭用コンセントから取れる電力は1500Wが目安です。
LEDテープ
テープに大量のLEDが並べられたものです。大量のDMXチャンネルが必要ですが非常に細かい制御が可能です。また、テープ状なので施工物に埋め込むと言った事も可能です。
TIPS
LEDテープやLEDテープを内蔵した照明機器の中にはDMXではなく、SPIというプロトコルで動くものも多くあります。そういったデバイスを使う際にはまた違った工夫が必要です。SPI方式のLEDデバイスの制御方法はまた他の記事で紹介します。
その他
ミラーボール(の回転を制御するモーター)やフォグマシンもDMX制御可能なものが多数あります。
Kinectic Light
Kinetic Lightという照明の根本にモーターが取り付けてあって、照明を上下できる機材もあります。非常に高価ですが、ダイナミックな演出が可能です(上で紹介した事例もKinetic Lightの一種です)。
特効
その他、ステージを火を噴いたり水しぶきを上げたり花火を上げたりといった特殊な演出の制御もDMX信号で制御されている場合が多いようです。
機材の設定・接続方法
一般的にDMX機器はスタートアドレスを設定できます。
設定はデバイスの背面に設定するためのボタンやDIPスイッチがあることが多いようです。
(参考イメージ)
この設定を利用すると、同じ型のDMX機器を4つ置いて、しかも同じように光らせる場合、以下のように同じスタートアドレスを設定することで同じチャンネルを見てくれるため、制御するDMX信号のチャンネル数を削減することができます。
また、デバイスは接続順に関係なく、スタートアドレスによってDMX信号の512チャンネルのうちどれを読むかを設定できるので、デイジーチェーンによる接続順は自由です。例えば以下のように接続しても上記と同様に動作します。
システム構成
DMX信号の生成はPCを使うか使わないかでまず大きくやり方が変わります。通常、クラブやライブだとDMXコントローラーと言われるスライダーの沢山ある機材を使い、PCを使いません。
PCから制御する場合、専用ソフトを使うか、オリジナルでアプリケーションを開発するかの2択になります。どちらにしろDMXケーブルは直接PCに刺すことができないので変換器が必要になります。良く使われるのはEnttec社のDMX USB PROシリーズで、USBをDMXに変換します。
専用の制御アプリの中には変換器とセットで販売しているものもあります。
Artnet / S-ACN
大量の機材を同時制御する場合、512チャンネルでは足りないことがあります。例えばフルカラーのLEDを1つずつ制御しようとすると1台にRGBの3チャンネル必要なので170台、あるいは170ピクセルの制御が限界になります。
その場合、ArtnetやS-ACNといった通信規格を経由してDMXを制御することになります。どちらもEther Netケーブルを使い、IPアドレスで指定してDMX信号を送ります。
DMXの512チャンネルを1ユニバースと言い、Artnetを制御することで一気に数十、数百のユニバース、数万チャンネルの制御が可能になります。システムとしてはこのようになります。
ArtnetからDMXへの変換にはEnttec社のODEがよく利用されています。
いくつかシステム図のサンプルを作成してみます。まずはDMX USB PRO MK IIを使った場合。
次にArtnetで作成した場合。
PCで制御する場合は少なくともDMXへの変換機器(DMX USB PROもしくはODE)は自前で持っていた方が良いでしょう。Artnet-DMX変換は8ユニバース変換や16ユニバース変換など、まとめて変換してくれる機材も多くあります。
TIPS
DMX機材はなかなか高価なので個人で買うのは厳しいものも多いです。そういう人はAlibabaを物色してみるのをおススメします。入手性が安定しないので常設案件などでは厳しいですが、一回きりのイベントや個人利用では充分なクォリティの機材が販売されています。また、国内では流通していない面白い機材も多くあります。少し英語での対応が必要ですが、基本発注から5営業日程度で機材が手元に届きます。
最後に
DMXコントローラーは少ない数のDMX機器を制御する際には非常に便利ですが、Artnetを扱えるDMXコントローラーになると急に高価になるため、大量の機材を扱う際はPC制御のほうがコストパフォーマンスに優れます。
また、PCのほうが複雑な挙動やインタラクティブな動作をする際の調整が容易です。TouchDesignerやopenFrameworksなどを使って触ってみるのをお勧めします。
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