体験展示の運用保守契約について考える
こんにちは、poipoiです。
「テクニカルディレクター目線のプロジェクトマネージメント手法」
を考えてみる記事。
今回は、体験展示の運用保守契約についてどうとらえるべきか、というお話。
運用保守契約、ちゃんと結べてますか?
最近、同業種の方々と運用保守の契約をどういう風に結ぶべきかを意見交換する機会が何度かありました。
やはりみなさんモノを作る職業の方たちだけあって開発に関する契約の勘所は鋭い方が多いのですが、運用や保守に関してはなかなかコレといった指標を持てていないことが多いようです。
かくいう私も、かつては短期の展示に関する仕事が多く、運用保守についてはある程度曖昧にやっていたのですが、
ここ最近、常設や長期展示のお仕事をさせていただく機会が増え、運用保守について考える機会が増えてきました。
そこで現在の個人的な考え方を備忘録的に書いておこうと思います。
長くなるので、記事を2本にわけようかと思っています。
まず今回は、運用保守契約にかかわる要素をブレイクダウンしていき、各項目でどんな点に注意すべきかを考えていこうと思います。
運用保守の各要素
ひとくちに運用保守といっても、対応の内容は多岐にわたります。
ざっくり分類わけしてみると以下のような要素がありそうです。
1.不具合対応
2.メンテナンス(経年劣化への対応)
3.オペレーション(またはサポート)
4.オペレーションミスへの対応
5.機能追加
それぞれの項目において、運用保守契約にかかわってくる部分と、大元の開発自体の契約にかかわってくる部分があり場合分けして考える必要があります。
それぞれもう少し詳細な内容を掘り下げながら話していきます。
1.不具合の対応
一般的に「不具合」というワードから想像するのはいわゆる開発の「瑕疵」であり、開発工数の中で対応が賄われるべきだと考えがちかと思いますが、個人的には一元的に判断するのは難しいと考えています。
例えば、Wikipediaによると不具合とは以下のような状態を指すと書いてあります。
「仕様の不明確さ、設計時の想定外、品質のバラつきなどを原因とした責任の所在が不明確な障害や欠陥、不良品、バグ」
「不具合」 ウィキペディア日本語版 より
この説明からもわかる通り、ひとことで不具合といってもその理由は多岐にわたります。
特に可動部品を扱うよな制作物や、市販品を組み込むような制作物の場合、それが瑕疵であるかを一元的に判断することが極めて難しくなります。
そこで瑕疵に対する対応期間を契約で定め、その期間内において発見された不具合については開発契約内から費用を捻出し、期間を超えた場合においては運用保守契約内から費用を捻出することが一般的かと思われます。
展示期間や運用保守契約の如何によって、数か月~1年程度が主流でしょうか。
(その他、受入検査による納品時の瑕疵判断なども考えられますが、体験展示においては一般的な方法ではないように思うので今回は割愛します。)
したがって、開発費用を見積もる際にこの瑕疵対応期間分の工数を見積もり忘れないよう注意が必要です。
また別の注意点として、2020年4月に施行された民法改正により瑕疵(民法上は契約不適合という言い方に変わった)への対応期間については、請負契約の場合、納品より10年(発見より1年)に大幅に変更されました(以前は納品より1年だった)。
なので契約上特に定めをしなければ、10年間は不具合対応を無償で行わなければならないことになります。これは体験展示に限っていえば明らかに期間が長すぎます。
先述の通り瑕疵とそうでない不具合は一元的な判別が難しいので、新たに発生する問題なども無償で対応しなければならない可能性が出てきてしまいます。
ただしこれらは任意規定であり個別の契約によって上書きすることが可能です。そのため、不具合対応期間についても開発の際に取り決めをして契約を結んでおくべきです。
(民法改正の細かい内容についてはこちらがわかりやすいです)
2.メンテナンス(経年劣化への対応)
常設展示などの長期間の展示の場合、そのままなにもしないと経年劣化による不具合が発生してしまうため、メンテナンスを行う必要があります。
特に可動部品を組み込む制作物の場合は経年変化が顕著なため、定期的にメンテナンスを行うほうが良いです。
その場合、運用保守契約としては期間契約にし、「1年につき〇円 x 〇年 」のような形で取り決めをするのが良いかと思います。
電気部品や堅牢な市販品のみで構成される制作物の場合、開発の瑕疵や市販品の初期不良などを除けばある程度安定稼働させることも可能です。
この場合は期間契約の他に「不具合発生時に都度対応。費用は実工数で請求」という取り決めで十分な場合もあります。
ただしこの場合、万が一不具合が発生してから対応するまでの期間をカバーするために、代替え機をある程度の数量、あらかじめ余剰に制作しておく必要があります。
その費用は開発費の方に上乗せになるため、開発時にその分についても正しく見積もる必要があります。
また短期間の展示の場合、別途メンテナンスに関する取り決めをせず、後述するオペレーションとセットで対応する場合もあります。この場合も開発時に見積もるのを忘れないよう注意が必要です。
3.オペレーション(またはサポート)
展示期間が短い場合、特別にオペレータを用意せず、制作サイドが自らオペレーションも行う場合も多いです。(数日間のみ開催のライブ演出や広告系イベントなど)
また、オペレータを別途用意する場合であっても、オペレータに対する教育や教育に使用するマニュアルの作成については制作サイドが担わなければならないことが多いです。
これらの場合、運用保守契約を結ばないことが多いため開発時の見積もりに忘れずに盛り込む必要があります。
4.オペレーションミスへの対応
外部のオペレータに委託する場合、ミスオペレーションによって生じる不具合もあります。その場合、制作サイドが復旧対応を行う必要がでる事があります。
この対応については2のメンテナンス契約に一緒に盛り込むのが良いとおもっています。期間契約にするか都度請求にするかの考え方も2と同様でよいと思われます。
5.機能追加
機能追加に関しても、運用保守契約内で行われるべきか別途新規開発として契約すべきか、一元的に判断することが難しい項目です。
たとえば「お客さんの反応がいまいちだからもっと演出を派手にできないか」と相談された際に、それはもともとの開発段階での検証不足なのか、新規の要望なのか、判断をするのは難しいです。
したがって1の場合と同様に対応期間を設けて、その期間内の軽微な要望であれば元の開発費用の中で対応する、というのが良いと思われます。
したがってこの部分に関しても開発時の見積もりに盛り込んでおくべきです。
また、新規追加として新たに開発を行う場合においても、運用保守の期間契約内に盛り込んでしまって定額制で行うか、新規開発として別途費用建てをするかの2種類の方法があります。
運用保守の期間契約内で行う場合は、あまりに新規要素の多い開発を行うことは難しいと思われるため、どの程度の範囲までなら契約内とするかの基準をあらかじめ取り決めておけると安心です。
と、ここまで長々と書いてしまいましたが、あまりこの内容に縛られすぎてしまう必要もないかと思うので、お客様との関係性の中で契約を定めていく際の足掛かり程度になればと思っております。
という事で、体験展示の運用保守契約について考えてみたお話でした。
今回はこのへんで。
追記:
続きを書きました!