2人のAIによる人間不在のラジオ配信実験
KBS京都で放送中のラジオ番組『祇園pickup あっぷ!』では、ベースドラムによるさまざまなテクノロジーの実験コンテンツをお届けしています。前回は、AIと共に作るラジオドラマの制作プロセスをご紹介しました。
今回は、ラジオ番組での実験的な取り組みから派生したプロジェクトとして行った「人間が介在せず、AIだけで行うラジオ配信の実験」についてお届けします!
まずは、実際にAIだけで行った配信の内容をお聞きください。
今回は、ライブストリーミング配信プラットフォーム「Twitch」を利用して生配信を行いました。こちらは、その一部を収録した内容です。配信では、AIがパーソナリティとディレクターをつとめており、トークテーマの生成自体もAIが行なっています。
ここからは、具体的な制作プロセスについて、ステップごとにお送りしていきます。
[💡Step1]アイデアが生まれた背景
前回のnoteでお送りした「AIと人間が共につくるラジオドラマの制作実験」では、ラジオドラマの主人公「朝倉翔太」の性格を記憶したAIにインタビューするという実験を行いました。
この過程で、「AIである朝倉翔太が、ラジオパーソナリティをつとめたら面白いのでは?」という新たなアイデアが浮かび、今回の実験を行うことになります。
[💡Step2]AIラジオパーソナリティの開発
ラジオドラマのキャラクターがラジオパーソナリティをつとめるにあたり、音声の生成はドラマ制作時にも使用していた「ElevenLabs」で行いました。
ただし、「ElevenLabs」は指定されたセリフを話すことはできますが、自ら話す内容を考えることはできません。そこで、「朝倉翔太の声を生成するElevenLabs」と「彼の性格を記憶しているChatGPT」を連携させることで、彼の性格に基づいた発話の生成を試みました。
▼パーソナリティである朝倉翔太AIによる自己紹介
こうして、朝倉翔太の性格と声を使ったAIラジオパーソナリティが誕生しました。
次に、パーソナリティである朝倉翔太に、配信で何を話してもらうかを考える必要がありました。
「適当なトークテーマで話して」と指示するだけでも朝倉翔太AIにトークをしてもらうことはできましたが、それだけではどこか面白みに欠けますし、せっかくの生配信であるにも関わらず、ライブ感が不足してしまいます。
そこで、別のAIにラジオディレクターの役割を持たせ、パーソナリティである朝倉翔太AIに生配信らしさを活かしたトークテーマを指示してもらう、というアイデアが生まれました。
[💡Step3]AIラジオディレクターの開発
AIラジオディレクターには、生配信らしさを活かしたトークテーマを生成してもらうため、「目」としてWebカメラを装備しました。配信現場のカメラに映るものを元に、都度トークテーマを生成。そこからAIパーソナリティである朝倉翔太AIにトークの指示を出してもらいます。
このような仕組みにすることで、まるで2人のAIが自由にコミュニケーションをとりながらラジオ配信をしているような光景を作ることができました。
このシステムは、あくまで「AIが人間の介在なしにトークテーマを考え、話し続けられるのか」という実験であり、実際のラジオパーソナリティやディレクターが行う複雑な判断ができるレベルのものではありません。
しかし、このプロセスを通じて、人間が介在しない配信を可能とするAIパーソナリティとAIラジオディレクターの基礎が出来上がりました。
[💡Step4]AIラジオディレクターの「手」を作る
さらに、自社の展示会向けの演出として、「AIラジオディレクターがロボットアームを使いPCにタイピングすることで、AIラジオパーソナリティにトークテーマを指示する」という見せ方のアイデアが浮かびました。このアイデアにより、AIラジオディレクターには「目(Webカメラ)」に加えて「手(ロボットアーム)」も装備されることに。
全体の図解
AIラジオディレクターがAIパーソナリティにトークテーマを指示する実験の様子
展示会の様子
この取り組みは、ベースドラムが開催した「SEEDS展」に向けたプロトタイプ制作の一環でした。会期中は、Twitch上での人間不在のライブ配信を3日間にわたり行い、話題が途切れることなく配信が成功!多少の読み間違いはあったものの、朝倉翔太AIのトークは非常になめらかなものでした。
来場者からは「AIに親しみが持てた」「AIをこのように組み合わせる取り組みが面白い」といったご感想をいただき、技術をもっと身近に感じてほしいと考えている私たちの想いが届いたようで非常に嬉しい反響でした。
AIと人間の心地よいコミュニケーションを探る実験
今回、AIに「AIパーソナリティ」と「AIラジオディレクター」という2つの役割を担当してもらいましたが、実は「人間不在でラジオ配信を行う」という観点では、わざわざAIを2つに分けず、1つのAI(ChatGPT)に2つのことを指示をするだけで実現可能でした。
では、なぜあえて役割を分け、さらにロボットアームのような「手」まで導入したかというと、私たちがAIによる「効率的な暮らし」の実現を目指していたのではなく、「AIと人間の心地よいコミュニケーションを探る」ことを目的として実験を行っていたからです。
今回の取り組みでは、人間がこれまで使ってきた道具やプロセスを変えることなくいかにAIと協力できるか?を試みるために、人間の「目」の役割を果たすカメラや、「手」として機能するロボットアームを活用しています。
今後も、人間の五感を模したさまざまなセンサーに加え、ロボットアームのような人間の動きの表現を担う装置を組み合わせることで、人間とAIがユニークなコミュニケーションを実現できる可能性を探っていきたいと考えています。