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この6ヶ月、BASSDRUMが試してきたリモートコミュニケーション

私たちテクニカル・ディレクター、すなわち「技術がわかる、デジタルものづくりの監督」の集まりであるBASSDRUMというのは、結構特殊な考え方で設計されていて、深く関わっても良いし、浅く関わっても良いようになっているコミュニティです。

社員として働いている人もいるし、社員ではなく独立採算でフリーランスだったり自分の会社を持っていたりもしますが、オフィスに来て常に一緒に働いている人もいます。出社もせず、仕事的にもプロジェクト単位で動いて、完全にフリーランスとして参加しているメンバーもいますし、他の会社で社員として働いているメンバーもいます。コミットの仕方にグラデーションがある集まりだと言って良いかと思います。

同じ職業の人間が情報や仕事を共有することのメリットがあって、そこに文化を生んでいくことが楽しかったり有意義だったりする部分もあるので一緒にやっているところがあります。
そのへんの「集まったらこんな良いことがあったよ」という話はちょっと前に、別記事で書かせて頂きました。

ゆえに「この人はBASSDRUM所属!」みたいな線引きをして人を囲い込む感じではないし、実質的に一緒に活動できていればそれだけで良いのだと思っています。会社が大きくなることも目的ではないし、テクニカルディレクターという職業に就いている人たちが気持ちよくものをつくることができる文化だけが広がってくれればそれで良いと考えます。その文化には、「価格感」とか「サービスレベル」みたいなものも入ってきます。つまり、会社組織としての線引きはゆるくて、ビジョンと行動の方が強く存在している、みたいなイメージを持ってやっています。

そんな感じの集まりなので、一応形としては代表の私も海外で好き勝手やりながら運営できているところがあるし、働いている人がいつどこに活動の舞台を移してもあんまり問題がないようになっています。東京にいる人と京都にいる人とニューヨークにいる人が普通に一緒に働いて連携しています。空間的にも時間的にも自由度が高い、というのがBASSDRUMの特徴ではありつつ、ゆえに空間や時間を超えて、コミュニケーションを取り続ける手段が必要になってきます。それは時としてテクノロジーだったりするし、ちょっとした習慣だったりもします。

そもそもそういう努力が必要な集まりではあったBASSDRUMですが、世の中がこういう状態になってしまったのもあり、空間や時間を超えてコミュニケーションを行っていくための実験をいろいろやっています。というわけで、本稿ではBASSDRUMがいろいろ試しているコミュニケーションのチャネルや工夫について書いてみることにします。うまく行っているものもありますが、全然うまく行ってないのもあります。が、BASSDRUMと同じようにフィジカルにそんなに集まらないタイプのコミュニティや職場を運営している方の参考や反面教師になると良いなと思って記してみます。

slack

言及するまでもなく、BASSDRUMのコミュニケーションはかなりの割合slackをベースに行われています。
まず、全員入ってるチャンネル、会社の買い物チャンネル、見積もり管理チャンネル、海外メンバーを巻き込んだチャンネル、といった用途別のチャンネルがあります。そしてプロジェクトごとのチャンネル、他社とのコミュニケーションチャンネルなど、わりとチャンネル多杉状態になっていますが、これらでは常になんらかのコミュニケーションが行われており、こないだslackが落ちた際はそれなりに仕事が止まった程度にはslackに依存しています。

本稿では、その中でも面白い役割を果たしているチャンネルについて書いてみます。

slack-デモチャンネル

BASSDRUMのテクニカルディレクターは、常々、新しいデバイスを触ってみるとか新しい技術をいじってみるとか、ということは癖としてやっていたりします。そういった、日々のちょっとした、世の中に公開するほどでもない実験をカジュアルに投稿していくチャンネルです。

公開するほどでもない、と言いつつ、「あ、こんなことできるのか」とか「これは意外に見たこと無いぞ」というものもそこから生まれてくるので、案件の中で「demoに上がってた○○さんのあれ提案してみようよ」みたいなことは起こりがちだったりするので結構機能していると思われます。

そもそも、そういう日々の手遊びが「あ、こんなこともできるんならこんなこともできるな」という発想につながって制作物になっていくようなパターンというのはこれを書いている私自身も何度も経験している流れだったりもするので、こういう場はとても有効です。

実際、ここから生まれて案件に採用されているような表現や手法もあります。むらけんさんのipad ProのLiDARのオクルージョンデモなんかも最初はここに投稿されていて、みんなで盛り上がっていました。


slack-日報チャンネル

その中に、日報チャンネルというものがあり、BASSDRUMの参加メンバーが気が向いた際にその日あったどうでも良いことからどうでも良くないことまで報告をする、というものになっています。たとえばこんなの。私の場合、最近、ずっとNetflixで「梨泰院クラス」を観続けていました。

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よく書く人もいれば、書かない人もいますが、こういう独り言を通して、お互いの状況や興味があることなども見えてきたりするので、わりとうまく機能していると思われます。

slack-実況チャンネル

BASSDRUMの誰かが出演したり関わっているイベントなどのオンライン配信やテレビ配信、あるいは業界周辺の注目配信などをリアルタイムで観ながらああだこうだコメントを入れていくチャネルです。最近だと、むらけん(村山)さんと高嶋さんが関わったバスキュールさんの宇宙配信(KIBO宇宙放送局)の配信時なんかは、色んな人がこのチャンネルに集まって「日の出だー!」みたいに盛り上がっていたりとか、技術的に注目を集めている配信などでは寄ってたかって「あれはこういう仕組みなのではないか」というような議論が飛び交ったりしています。

このチャンネルもたまに盛り上がりますが、自分が何かに出演している横でこのチャンネルを開いているとBASSDRUMの人たちのコメントが気になってとても気が散ります。

一度、私がとあるオンラインイベントに出演した際は、途中で強烈な尿意に襲われてしまい、カメラの前ではすごくちゃんとしゃべっているのに裏でこのチャンネルで尿意の限界を訴え続けた、みたいなこともありました。

slack-読書チャンネル

最近、森岡さんがつくったチャンネルで、自分が読んだ本を記録していく場所です。漫画でも文字の本でもなんでも良く、とにかく感想をシェアします。何しろ多様な人々が集まっている団体なので、読んでいる本も多様です。誰かがすごくためになりそうなビジネス書をシェアした後に、燻製のレシピ本をシェアするのとかは気恥ずかしくなりますが、いろんな意味でセレンディピティに満ちた空間になっていくのでとても楽しいです。

プロデューサーの北原さんがおすすめしていたこれ、知らなかったのですがすごく良かったです。完全に北原さんが好きそうな何かであるというのも良い。

・・・といったコミュニケーションチャネルのみならず、繰り返しますが、もちろん業務上のコミュニケーションの主戦場もslackになっています。

Notion

プロジェクトの管理やちょこちょこ引っ張り出したい情報はnotionで管理しています。有効活用している人とそうでもない人がいる気がしますが、進行中のプロジェクトなんかは完全にnotionで管理しているので、みんな何らかの形で触れていると思います。

takramの田川さんがこんなことを書いていましたが、「あーたしかにtakramさんっぽいなー。かっこいいなー」と思ったりしてもっと使い倒そうと思ったりするし、使い倒すと絶対良いことあるよね、と思いますが、たぶんtakramほど使ってはいないです。けど結構使っています。


discord

TouchDesignerのコミュニティとか、ゲームコミュニティでのコミュニケーションによく使われているdiscordですが、BASSDRUMのdiscordというのも存在しています。

一時、結構盛り上がったのですが結局コミュニケーションがslackに戻ってきてしまう感はあります。

BASSDRUM用には使ってないけど他のコミュニティでのコミュニケーション用に使ってる、という人も結構いるように思います。

あと、いつぞやslackのシステムがダウンして仕事にならなくなったときに一斉にみんなでdiscordに避難していたのは面白かったです。

Cluster

BASSDRUMの東京オフィスは乃木坂駅前のwhereverというビルにあります。技術実験スペースも兼ねたわりと特殊な空間になっているのですが、ご他聞に漏れずこの春から夏にかけては基本的に完全リモートワーク。今後も必要に応じて出社するようなスタイルになっていくのだろうと思います。

とはいえ、自分たちのオフィスです。愛着もありますし、空間を共有して一緒に活動する楽しさというのはもちろんあります。

そんなわけで、5月くらいに、VR空間共有プラットフォームであるClusterにBASSDRUMオフィスを設置しました。資料をプロジェクションしたりもできるので、アバターで参加して本当にバーチャル会議をやったりすることもできます。

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左が実際のオフィス、右がCluster版オフィスです。

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すごいのが、この空間のモデリングをしたのが、5月頭、つまり完全リモートな状態の中BASSDRUMに参加した小川さんだということです。小川さんはオフィスに来たことがないのに図面と写真から中二階の昼寝スペースに至るまでそこそこ細かく空間を再現しました。

下記の映像で小川さんがそれについてしゃべっています。

2-3回この空間に集まって会議をしたりしましたが、だいたい3回位で飽きてzoomに戻った感があります。

REMO

人から薦められて、オンラインイベントプラットフォームのRemoを試してみたこともありました。

実際の空間を再現して、同じテーブルに座っている人だけがお互いに会話できて、かつ壇上のプレゼンターの声は全員に聞こえる、みたいな仕組みになっているが、BASSDRUMにおいてはこのユーザーインターフェースに混乱する人々が続出して「これはあかん・・・」となり三々五々zoomに戻ってくる、ということがありました。

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すぐに逃げてきてしまったので、本当はもっと良い使い方があったのかもしれません。

Mastodon

2年前くらいに瞬間風速的に盛り上がった分散型のTwitterっぽいソーシャルネットワーク。BASSDRUMにはBASSDRUMのイベントに来てくださったテクニカルディレクターの皆様と情報共有をするslackチャンネルなどもありますが、自前のmastodonサーバを立ててそこでtwitter的な、なんというか一方的な発信に近い形の発信ができるようにしたらもうちょい盛り上がるのではないかと思ったので、今年の冬くらいにニューヨークのコリアンタウンのカフェで四苦八苦しながらサーバを立てたのですが、まあまあ盛り上がりませんでした

とはいえ森岡さんと泉田さんは自分のTwitterと連動していて、結構な投稿量があります。

今招待制にしてはいますが、これは、「技術的な情報交換をする場所」として公開したりするともうワンチャンありそうな気もしています。

下記リンクがトップページですが、今のところ登録はできません。招待制です。

映像共有

YouTubeの動画を同期させて皆で観る、という仕組みはちょこちょこ存在しています。私も週末に、BASSDRUMで配信している「BD LIVE」を忙しくて観れていなかったので鍜治屋敷さんや小山さんや紫竹さん、konelの荻野さんとかがしゃべっていた回を観ようと思ったときに、「どうせならみんなで一緒に同期させて観てみよう」と思って、BASSDRUMのslackやソーシャルメディア等で告知してみたのですが、自分も含めて3人くらいしか来なくて、わりと静謐な時間を過ごすことになりました

これを使いました。spatial.chatとかでもできる気がする。

そのとき観てたBD LIVEはこのへん。


ポートフォリオ共有zoom飲み

以前、個人的にこんな記事を書いたくらいで、「zoom飲み」というものは、ともすれば非常に扱いが難しい困ったコミュニケーション手段です。

司会者の力量で会話の展開が変わってくるし、沈黙の扱いが難しいし、なかなか疲れます。BASSDRUMでも大人数で「ただのzoom飲み」をやったことはあるのですが、そのへんの難易度は変わりません。一方で、zoom飲みというものの扱いづらさは、会話をつないでいくこと、参加者のケアをすることなどになるので、ちょっとした目的を与えてあげることで「ただのzoom飲み」とは別の趣旨になりますが、実りのある、ストレスの少ないコミュニケーションの機会にもなりえます。

その例が、BASSDRUMで開催した「ポートフォリオ共有zoom飲み」です。

BASSDRUMにはたくさんのテクニカルディレクターが参加しています。会社組織でもあるので、毎日のようにコミュニケーションはしているのですが、全員がお互いに最近何をやっているのかとか、そもそも過去どういうものをつくってきたのか、みたいなことを知っているわけではありません。

なので、zoom飲みみたいな感じのイベントにかこつけて、1人10-20分くらいで自分のやっていること・やってきたことをプレゼンする、みたいなライトニングトーク大会にしてしまいます。こんな感じの自己紹介資料なんかを作っちゃったりして。

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もちろん、お互いの活動や興味を深く知ることになるので趣旨にはかないますし、何が良いって、しゃべる人が決まっていて目的もあるので、ファシリテートをそんなにしなくて良いというのが素晴らしいです。気も遣わなくて済みます。人の話を肴に酒を飲みたい人は飲めばよいですし、質疑応答で会話が広がったりもします。ので、わりとおすすめです。

フィーカ

みたいなのとは別に、4月か、日本に緊急事態宣言が出て以降、BASSDRUMではコミュニティのテクニカルディレクターにもオープンな形で(つまり、BASSDRUMとして仕事をしている人以外も含めて)、平日は毎日、30分だけオンラインで集まって会話をするということをしています。時間も決まっていて、原則毎日開催しています。

最初は、Stay at home期において正気を保つための臨時施策でした。家族がいる人もいればずっと家に一人の人もいます。いろんな状況でいろんなStay at homeをやっている人たちがいるわけなので、誰がどのくらいしんどいことになっているのかも想像がつかない。とにかく、人としゃべる機会を無理くりにでもつくろう、ということで毎日開催することにしたのです。

当初「日次定例」という味気ない名前でしたが、ある日、私がデジタル系のお手伝いをしているコルクさんのslackで流れてきたこの記事を見て、「あ、これはBASSDRUMでいつもやっているやつだ!」と思いBASSDRUMで共有したところ、この毎日のMTGが「フィーカ」という名前になりました。

当初はとりあえず雑談をしてみようという感じだったのですが、それはそれでzoom飲みと同様の困った感じも出てきたので、話すことがなくなったら、別途slackチャンネルで共有されている技術関連のニュースについて話す、みたいな文化になっていきました。

結局もう5ヶ月近く続いていて、その上でBASSDRUMのコミュニケーションが基本的にリモートワークを続ける感じになってきたのもあり、文化として定着しました。しかし、思えばこれがあるから、東京と京都とニューヨークと、時には札幌やら台北やらと、みんな離れた場所で一緒に仕事をする上でのリズムを共有できている感じはあります。

総括

というように、この数ヶ月、団体としてのグルーヴ感を失わず、むしろ増幅すべくあの手この手でやってきたわけなのですが、9月にもなってかなり慣れてはきました。

とはいえ、やはりどうしてもリモートワークだと仕事がはかどらないと自覚しているタイプの方もいるので、BASSDRUMではリモートを義務付けるということはなくて、自己判断でオフィスに出ることは可能になっています。別途どこかに書こうかなとも思っているのですが普段ニューヨークに住んでいる私も、この夏はしばらく日本にいたのですが、なんだかんだ毎日乃木坂のオフィスに出社していました。

とはいえ、もともと、やることやっていればどこでどのように働いてもOKというノリで動いていたところはあったのですが、もはや別にどこでどのように働くのも各々の自由、みたいな意識は定着したなあと思います。

そうなるとどんな会社や団体でも放っておくとコミュニケーションの疎遠化が進むのは確かだよなあとは思うので、どのようにそうならないためのフレームをつくるか、というのが大事だなと思っていろいろ試したら、わりといい感じの「遠隔コミュニケーション団体」ができた感もあるのでやってきたことを書いてみました。

リモートワークな中で新しい人の集まり方を考えている方や企業、コミュニティの何かの参考になれば幸甚です。

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