【Move.ai】モーションキャプチャーをテクニカルディレクターが一気にレビューしてみた:第二回
BASSDRUMによるモーションキャプチャレビュー第二回で取り上げるのは、2023年3月にリリースされ、昨今のAIのブームもあり非常に話題になったAI系モーションキャプチャー「Move.ai」です。
このシリーズでは、以下の項目をベースにテクニカルディレクターの視点でレビューしていきます。
それではどうぞ!
※ 今回はiPhone8とiPhone12で検証を行いました。
※ 本記事の情報は全て2023年4月現在のものです。
(検証日:2023年2月24日)
製品概要
Move.aiは、AI技術を活用して高精度なマーカーレス・モーションキャプチャーを実現する革新的な技術で、最近多くの注目を集めています。(公式サイト参照)
一般的なスマートフォンのカメラとAI技術を利用して、どのような環境でも高精度なデータ収集により、ボディモーションの再現が可能となります。
また、特別なスーツやマーカーを使用せずに、簡単なセットアップと使いやすいUIにより、プロフェッショナルなアニメーターから初心者まで幅広い層が利用できます。
Move.aiは、映画やゲーム制作・AR/VRコンテンツ開発・スポーツ解析などの分野で活用されています。
対応デバイス:
ホスト:iPhone8-14、iPad
カメラ:iPhone8-14
対応システム:iOS16または以上
ダウンロードリンク:https://apps.apple.com/us/app/move-ai/id1642699132
公式サイト:https://www.move.ai
使い方
Move.aiの公式ドキュメントにチュートリアル動画があります。ご参照ください。
操作手順は以下となります。
撮影準備を確認する
アプリとカメラを設置する
キャリブレーションを行う
本番撮影を行う
撮影したリールをアップロードする
データを処理する
キャリブレーションを処理する
本番撮影を処理する
処理したモデルデータをダウンロードする
総合評価
精度 ★★★★☆
遅延 —————
手軽さ ★★★★★
他ソフトとの連携 —————
価格 ★★★★★
長所
モーションキャプチャーソリューションとしてかなり安価。
セットアップが簡単。高精度のカメラすら要らなく、iPhoneだけでも収録できる。
スーツやマーカーがいらず、いつでもどこでも収録できる。
短所
現時点ではリアルタイムでの利用が不可。
若干精度に欠ける。ただしカメラの数を増やすことで一定程度改善できる。
収録とデータ処理は一つの設備に収めることができず、スマホとパソコンの操作が必要。
データのアップロードが中断され、失敗する可能性がある。
失敗した場合、最初のキャリブレーションからやり直す必要がある。
「リアルタイムでの利用が必要ではなく、3Dを用いたコンテンツ制作を行いたい」、「モーションキャプチャーを試してみたい」、「手頃な価格のモーションキャプチャを利用したい」といった方にとってはピッタリのサービスのではないでしょうか。
以下各項目の詳細です!
精度
★★★★☆
まずは、BASSDRUMのメンバーがMove.aiを検証する映像をご覧ください。
今回検証した動きは以下となります。
バンザイ
腕組み
ボックスステップ
ジャンプ
床座り(あぐら)
床座り(体育座り)
床座り(正座)
椅子座り(立ちから座り、座りから立ちまで)
ジャンプと椅子座りが問題なく反映されています。
ただし、腕組みや床座りなど身体の部位が重なるポーズには比較的弱いです。
検証動画にも反映されているように、身体の部位が重なるとアクターの動きからブレた挙動や位置のズレが生じることがあります。
総合的に見て、精度が非常に高いとは言えません。
今回の検証においてカメラを2台のみ使用したことが原因かと思われます。カメラが見えない箇所の動きはAIが自動的に補完するため、やや不自然な動きや、誤った動きが出てきました。
AI計算の死角をなくし、カメラの台数を増やして各角度で撮影をすることで精度が向上すると考えられます。
以下は公式サイトに掲載されている、主流なモーションキャプチャーシステムとの比較動画です。
この動画を見ると、他のモーションキャプチャーと比較して大きな差異は見られず、Move.aiの高い精度が感じられます。
Move.ai vs optitrack:
Move.ai vs rokoko:
Move.ai vs Movella MVN Animate(旧Xsens):
Move.ai vs vicon:
遅延
評価なし
現時点でリアルタイムでの利用はできません。
ただしMove.aiの公式ツイッターより、メディアサーバー会社「disguise」と提携し、リアルタイムのモーションキャプチャーソリューションを開発していることが発表されました。
公開時期は未定ですが、今後はより進化したリアルタイムのMove.aiが期待できるでしょう。
リアルタイムでのモーションキャプチャー機能が実装されたMove.aiの様子をご覧ください。
デモ映像ではわずかな遅延が感じられますが、リアルタイムでの姿勢推定と映像出力であることを考慮すれば、この遅延は許容範囲内ではないでしょうか。
手軽さ
★★★★★
必要設備
iOS16以上のシステムのデバイス(ホスト1台、カメラ2台以上)
精度を上げるため、カメラは4~5台が推奨
三脚(カメラの数に応じて必要な数が異なる)
必要人数(アクター含め):1名
セットアップにかかる時間(モーションキャプチャが可能になるまでの時間)
約5分
デバイスのセットアップ 4分
撮影範囲の確定 30秒
キャリブレーション 30秒
最低限確保すべきスペース
使用するカメラの数と撮影する人数によって異なる
一人の場合、最低2m×2mのスペースを確保する必要がある
Move.aiは、煩雑なスーツやマーカーの着用が不要かつ専用の撮影デバイスも必要なく、キャリブレーションも簡単に行えるため、非常に手軽であることが特徴的です。
またデータ処理においても操作がほとんど不要で、完成時には通知メールが届くため、ユーザーにとっても煩雑さが少ないと言えます。
ただしアウトプットについては、今回の1分半の動画の解析には約10分かかりました。解析速度には改善の余地があると思われます。
他ソフトとの連携
評価なし
現時点でリアルタイムでの他ソフトとの連携はできません。
生成したモーションデータは、fbxファイルの形でアウトプットし、他ソフトウェアに利用することができます。
価格
★★★★★
アプリ本体無料
サービス利用料は365USD/年*1
新規ユーザーは2分間のモーションキャプチャが利用無料
毎月処理できるモーションの最大時間は30分
30分を超える部分の費用は0.04USD/秒*2
ランニングコスト:無し
商用・営利目的での利用が可能
*1. 2023年4月12日現在、約48,880円
*2. 2023年4月12日現在、約5.36円
他のモーションキャプチャーデバイスと比較して、Move.aiはかなり安価なサービスでしょう。
またサブスクリプション制のため、他のサービスに移行する場合でも機材の処分などを気にすることなく簡単に退会できます。
その他
実験モードでは、カメラやスマートフォンで撮影した動画を処理することができます。つまり、アプリやiPhoneを必要とせず、任意のカメラで撮影した動画をモーションキャプチャーすることが可能です。
ただし、以下の制限があります。動画の長さの制限は1本最大5分
サポートされているファイル形式は.mp4、.mov、.avi
ファイル名の命名規則あり
キャリブレーション動画が必要
同時に最大8人分の動きを収録することができます。
実験モードで25人までの収録が可能
以上の動画から、複数人(9人)の同時動きの収録が可能であることがわかりました。
大人数の収録は一人の収録と比べて精度がやや低くなりますが、2〜3人のモーションキャプチャーに適していると考えられます。
特に、映画やアニメなどで2人がインタラクティブするシーンを収録する場合には時間を大幅に節約できるでしょう。
まとめ
「便利で安価」という魅力を持つMove.ai、いかがでしたでしょうか。
発売されて間もないMove.aiは、安価なモーションキャプチャーシステムの中では非常に高い精度を誇っていますが、まだ進化の途中です。
AI技術の進歩とともにモーションキャプチャー業界に革命が起こり、誰でも気軽に3Dモデルを作成できるようなデジタル民主化の未来が近づいてきているのかもしれません。
新規ユーザーは2分間の無料利用時間がありますので、ぜひお試しください!
以上、第二回モーションキャプチャレビュー「Move.ai」でした。
次回はモーションキャプチャーの定番「Vicon」をレビューします!
お楽しみに!