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テクニカルディレクターが集まって、2年経ってわかったこと

わたしたちBASSDRUMはテクニカルディレクターが集まっているコミュニティであり、営業組織であり、会社です。

もともと温めていたアイデアではありましたが、約3年前くらいに公にして、2年前の9月に本格的に稼働させました。最初の設立趣意はこんな感じでした。

当初、このコミュニティ・会社のアイデアが生まれたときは、「テクニカルディレクターばかりを集めたら何か面白いことが起きるのではないか」などと漠然と思っていましたが、本格的に始めてみて約2年、BASSDRUMの名前で営業活動をともにするメンバーも20人を超えたいまに至り、「ああ、テクニカルディレクターばかりを集めるとこういうことになるのか」という「結果論」の部分をもっと高解像度で言語化できるようになりました。予想していたことも、予想を超えた化学反応のようなものも、今のところ良かったことばかりではあるのですが、2年もすると見えてきたことがたくさんあります。

本稿ではそのへんのことを書いてみようかと思います。

テクニカルディレクターという職業は、以前書いたように、「技術がわかる、デジタルものづくりの監督」です。デジタルでものをつくるということは、何らかのデジタル技術を駆使して、人の役に立つものや楽しいものや、あるいはあんまり意味ないけど「なんかいいもの」をつくるということで、何かをつくるためには知識と経験があったほうがいい、と考えます。

なぜ「なくてはならない」ではなくって「あったほうがいい」なのかというと、世の中にはデジタルでものをつくるためのツールはたくさん存在するわけだし、知識と経験がない人がある程度のものを自分でつくることができるようなサービスやフレームワークは日々新しいものが提供されているからです。以前よりずっと、「誰でも何かをつくることができる」状況になっているし、デジタルものづくりは気楽にできるものになっています。

とはいえ、デジタル技術というのは、そんなふうにとても一般化している一方で、掘れば掘るほど奥が深いものでもあり、ちゃんとしたもの・目的に応じてカスタマイズされたもの・今までに見たことがないようなもの・体験したことがないもの、等々、簡単なツールで簡単につくれたら苦労しないよ、みたいな領域はまだまだたくさんあります。

簡単に何かをつくるための導入支援なんかを担当する場合もありますが、多くの場合、上記のような、そうそう簡単につくることができないものをつくっていくものづくりの監督がテクニカルディレクター、ということになります。

技術の総合病院

じゃあ、テクニカルディレクターっていうのは技術のことなら何でもわかるのか、というと全くそんなことはなくて、ぶっちゃけてしまうとわからないことも多々あります

何しろ一言にデジタル技術って言ったってめちゃくちゃ多くの領域があります。HTMLを書いてウェブサイトをつくるのもデジタル技術だし、スマホアプリを設計して開発するのも、銀行のデータベースを構築するのも、ロボットを遠隔操作するシステムも、Perfumeとかのテクノロジーっぽいアーティストのコンサート演出なんかに至るまで、デジタル技術です。そしてそこに、やれ人工知能だとか、やれブロックチェーンだとか、ARだのVRだの、新しい概念がどんどん入ってきます。そんなものに毎日ついていけるはずはないし、各々の技術について全部専門家としての知識を持っている人などいません。

これは、医者とかに近い話になります。小児科の先生は、精神科の最新医療についてそんなに知っているわけではないし、逆も然りです。だから、各々の領域に専門家がいる、ということになります。耳鼻科もいれば眼科もいれば、歯医者もいれば、麻酔とか放射線とか、もっと細かい、禁煙外来専門医だの、肝臓ガンの手術を専門にしている人とかもうとにかくたくさんいます。

じゃあお前らはなんの専門なんだよ、と言われてしまうわけですが、そこが私たちBASSDRUMのある種の強みではあります。BASSDRUMは、「技術の総合病院」なのです。BASSDRUMには、耳鼻科も眼科も麻酔医も放射線医もいます。つまり、フロントエンドの専門家もバックエンドの専門家も、ハードウェアの手練も、工場での製品開発のプロも、映像や演出機材を常に取り扱っている機材プロフェッショナルも、ブロックチェーンに命を賭けているような人までいます。

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それが、テクニカルディレクターばっかりで集まって仕事をしている1つの意味です。デジタルコンテンツであれサービスであれ、何かをつくっている制作会社や企画会社にはテクニカルディレクターやプログラマーがいますが、前述の通りで、1人から数人程度で動いていても、全方位的に領域をカバーすることができず、技術担当者がVRに強い会社だったらその会社はVR系の開発が得意な会社ということになるし、コンサート演出が得意な人が多ければそっち系・そっち寄りの会社ということになってしまいます。

もちろんそれは悪いことではなくて、各々のチームの持ち味ということにもなるのですが、私たちはそのへんの発想を変えて、デザイナーやプログラマー、あるいは最近では「怪しい肩書き」の代名詞になりつつあるクリエイティブ・ディレクターなどがチームの中にいない代わりに(正確には、そういった動きもできる人はいます。みんなプログラムは書いてるし。)、いろんなタイプのテクニカルディレクターばかりを集めることで、どんな領域のどんな相談にも対応できる、「総合病院」的な技術クリエイティブチームをつくることができました。

最初から各所連携できる

そしてこの体制は、総合病院としていろんなものに対応できるというだけではなくて、別の価値を生んだりもしています。

改めて、BASSDRUMで一緒に働いているメンバーのカバー領域は実に多岐に渡ります。通常、クライアントやビジネスオーナー、あるいは広告エージェンシーの方々が何かをつくろう、というとき、各持ち場の技術者は個別に声を掛けられて集められる形になることが多いです。

例えば、体験型のアトラクションのようなものをつくる場合、システム屋さんとソフトウェア屋さんとイベント機材屋さんは、お客さんが別々に声を掛ける感じになります。

近年は、プロジェクトの規模も大きくなり複雑になってきているので、そういう状態になりやすくもあります。

で、何が起こるかというと各々が各々の持ち場を一定のところまで自分たちの解釈で進めて、いよいよ現場で他のパートと連動させるぞ、というときに、お互いに「そんな仕様聞いてないよ」とか「こういうふうになるんだと思ってた」とか「いつもはこういうふうにやってる」みたいな各々の都合がぶつかり合って、揉めたりすることになります。

これは本当にBASSDRUMにいろんな人が集まり始めてはじめてわかったことですが、こういうような、何か複数の技術が絡むものづくりをやるぞ、というとき、最初の段階から各持ち場の専門家がいるから、プロジェクトに必要な複数のテクニカルディレクターが集まって、お互いに合意形成をした上でものをつくり始められます。集まっているテクニカルディレクターは常々コミュニケーションを取り合っている「同じ釜の飯を食っている人たち」だから、阿吽の呼吸で合意形成も速いです。そうすると何が起こるかというと、最初から最後までものづくりがいつもよりスムーズに進んでいくということが起こります。いつもそうであるわけではないですが、数日かかりそうなハードな設営現場がたった半日で終わってしまい、トラブルもなく運営されてしまうようなケースもありました。

BASSDRUMには、高嶋一成さんという、機材系テクニカルディレクターが参加しています。高嶋さんは東京駅から日本の古城から、日本の名だたる建物という建物にプロジェクションマッピングを行ってきたプロジェクションマッピングの匠であり、同時に様々な映像機材の調達を行える機材マスターです。

普段ソフトウェアの開発をやっていると、高嶋さんみたいな人と現場で出会って揉めるようなことはあっても、同じチームとして一緒にものをつくり始められることはまああんまりありません。

ところが高嶋さんがBASSDRUMの考え方に賛同してくれて参画してくれたときから、いつでも、どんな案件のコンディションでも、高嶋さんに相談ができるようになりました。機材構成も手法も、コストに至るまで、様々な精度の高い情報が案件初期に共有されて、ものづくりが精緻に進んでいきます。現場でもめちゃくちゃ頼りになる仲間だったりします。高嶋さんはBASSDRUMのnoteでも書いていただいているように、現場の養生テープやケーブルみたいなものに至るまで、みんなが知らないことを知悉してモノにしています。

そんな「高嶋体験」を一度でもしてしまうと、高嶋さんがいなかった頃どうやっていたのかを思い出せなくなったりします。イノベーションです。

そしてそんな高嶋さんも一例で、結構、お互いにお互いの特殊スキルを頼りにして、「自分にはできないことをできる人たちがたくさんいる」という状態の恩恵に預かっていると言えます。

一緒にやっているうちに育っていく

さらに面白いのが、そういった人たちと一緒にプロジェクトを進めることで、自分が知らない領域の「ノリ」というものが肌感覚でわかるようになるということです。

BASSDRUMの公文悠人さんは、前職時代はLyric SpeakerPechatといったインタラクティブデバイスのプロダクト開発で活躍していた人ですが、高嶋さんや村山健さんと一緒にARやエンターテインメントの現場で動いているうちに、そういった現場に必要な知識やルールなどが身に付いていき、機材が絡む現場を自分で仕切れるようになりました。先日も、WOWさんとがっつり組んでARプレゼンテーションのプロジェクトを成功させました。機材系の記事もいろいろ書いて情報共有しています。

もちろん最初はこの領域の知識も経験も少なかったから、一緒に動きながら技術開発の進行管理をやったりしていましたが、何件かの現場を経て、すっかりいろいろ吸収してしまいました。余談ですが、新しい技術領域の「ノリ」を理解してテクニカルディレクションをしていけるようになるためには、その領域のテクニカルディレクターに着いて進行管理業務をやるのが一番良い気がします。そもそもそういう形で複数のテクニカルディレクターが案件を担当してお互いにバックアップできる感じというのも、集まっているという前提があるからだったりします。

種々のテクニカルディレクターの連携のみならず、個々のテクニカルディレクターが新しい領域に仕事の幅を広げる上でも、こうやって集まることが結構有効であることがわかりました。

たぶん、こういう、集まってみて初めて見えてきた「型」みたいなものはもっと体系化していくと、「テクニカルディレクターを増やす」、つまり育てていく上でもたぶん有効な方法ができていくので、もう少しだけ先のステップとして、テクニカルディレクターの育成であったり、他の職業の方々、たとえばプロデューサーにテクニカルプロデューサー営業担当(アカウントマネージャー)にテクニカルアカウントマネージャー、という形で幅を広げてもらったりとか、そういうことも見えてくるし、海外でも同じ方法を取れるようになってくると考えています。

テクニカルディレクターを集める、という、あんまり誰もやっていなかった実験は、種を撒き始めて3年、本格的に育ち始めて2年くらいで、そんなわけでなかなかに面白い芽が出始めて、それらがエキサイティングな未来につながりつつあります。まだ仕込み中ではありますが、BASSDRUMという枠に留まらない展開もいろいろ進んでいたりします。

世の中が大変な時期なので、必要とされる技術領域も、苦戦している領域もあります。しかし、「技術の総合病院」であるからこそ、他の領域と連携をさせながら、展示物であるとかライブイベントであるとか、今難しくなっている領域についても灯を絶やさずに拡張していくことができる、と考えています。

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というわけで、ちゃんとしたコミュニティとしては3年目に入ったBASSDRUM、引き続きいろんなプロジェクトでお世話になりますが、何卒よろしくお願い申し上げます。

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