クロステック時代の新しい顧客体験のつくり方 |BASSDRUM×BICP共同セミナー
近年、テクノロジーの急速な進化により、ビジネスの在り方が大きく変化しています。
BASSDRUMとベストインクラスプロデューサーズ(BICP)が共催したセミナー「未来をデザインするためのテクノロジートレンドリサーチ」では、既存のビジネスとテクノロジーを掛け合わせた「クロステック」をテーマに、最新のテクノロジートレンドや新たな顧客体験のつくり方について取り上げました。
本記事では、イベントの内容をレポートします。
顧客心理を探る「インサイト」の重要性
BICP社は「マーケティングの力で人生を楽しめる人を増やす」をビジョンに掲げ、事業会社のマーケティング支援を行っています。オープニングトークで登壇した同社の中村元海さんは、アイデアを考える上で「インサイトの重要性」を語りました。インサイトとは、人を動かす隠れた心理のことです。
インサイトを掘り下げるためには、製品やサービスの枠を超え、日常的な人々の行動や価値観を理解する”人間観察”が大切だと中村さんは説明します。
しかしながら、テクノロジーの進歩が激しい現代においては、人間観察によるインサイト探索だけではなく、もう一つの方法論があるのではないか?という仮説を持ち、「テクノロジードリブンでインサイトを探索していくアプローチが重要」と中村さんは述べました。
「テクノロジーの発達により生活者の行動様式や価値観の変化が生まれ、そんな新しい現実世界に生きる生活者から新しいインサイトが生まれてくる。そういった可能性、視点を持つことが重要になると考えます。例えばiPhoneのような革新的なプロダクトは、人間観察からは生まれて来なかったと思います。(中村さん)」
今回のセミナーでは、最新のテクノロジーが解決する課題からどのようなインサイトを洞察できるのか、そこからどうサービス開発に活かしていくのかについて、「クロステック」という概念を用いながら掘り下げていきます。
フレームワークで学ぶクロステックの実践
クロステックとは、デジタル技術の考え方や手法を、私たちの日常生活や実際のビジネスに掛け合わせて応用することです。
そこで、BDの清水幹太とDentsu Lab Tokyoの土屋泰洋さんは、システム設計の基本的な考え方である「インプット・プロセッシング・アウトプット」というフレームワークを用いながら、「クロステックの概要」について説明しました。
インプット・プロセッシング・アウトプットのフレームワーク
下記の図にある「インプット・プロセッシング・アウトプット(Input-Processing-Output)」のフレームワークは、システムやプロセスを理解・設計するための基本的な枠組みです。
「クロステック」が注目されている背景には、「インプット(センシング技術)」と「アウトプット(制御技術)」の飛躍的な進化があります。これにより、従来はソフトウェアの世界でのみ実現可能だった概念や手法を、実空間やビジネスの現場に適用することが可能になりました。
実空間への適用事例としてドアの開閉システムを例に挙げると:
従来:鍵(インプット)→ 一致確認(プロセッシング)→ ドア開閉(アウトプット)
進化版:人感センサー(インプット)→ 人の存在確認(プロセッシング)→ 自動ドア開閉(アウトプット)
このように、インプットやアウトプットを変更することで、全く新しい体験を生み出せることが分かります。また、このフレームワークを活用すれば、ピタゴラ装置のように様々な技術要素を組み合わせて、新しい価値や機能を生み出すアイデアや製品を考えることができます。
さらに、このワークフレームとあわせてPDCAサイクルを活用することで、継続的な改善と最適化が可能になります。
土屋さんは「PDCAサイクルを効果的に回すためには、まず最適解を明確に定義することが大切です」と話します。例えば、eコマースサイトなら「コンバージョン率の向上」、製造業なら「生産効率の最大化」といった具体的な目標を設定すると、これがすべてのプロセスの基準となります。
具体例として、契約者数の増加を目指す場合、ユーザーの行動データを収集し(インプット)、それを分析して改善策を実施する(プロセッシング・アウトプット)といったサイクルを繰り返します。
さらに、SpaceXのファルコンロケットの着陸システムは、この考え方を極限まで推し進めた例として紹介されました。
イベントの後半では、ヘルステック、スリープテック、フェムテック、ビューティーテックなどの最新のクロステック事例が紹介されました。ユニークな事例として、顧客の健康データや行動に応じて保険料や補償内容が変動する「データ・ドリブン型保険」や、音声変換技術を活用した「カスタマーハラスメント対策プロダクト」なども取り上げられました。
生まれたアイデアをどう評価するか?
質疑応答の時間では、「生まれたアイデアが実際に良いものかどうかを評価するには?」というテーマで盛り上がりました。
清水は「今はプロトタイプが比較的手軽かつ安価に生み出せる時代なので、いかに試行錯誤を繰り返していくかが大事なポイントになると思います。
プロトタイピングを通じて、言語化しづらい『良さ』や感覚的な価値を見出すことが新しい顧客体験をつくることに繋がるのではないでしょうか」と話しました。
土屋さんは「まさに、『良さがある』と言う言葉は現場でよく使います。システムとしての合理的な評価と、感覚的な『良さ』の評価は、あえて分けて考えるのが良いかもしれません。また、プロトタイピングは単なる検証のツールにとどまらず、失敗を蓄積し、それを別の形で組み合わせることで、予想外の新しいアイデアを生み出す源泉にもなります」と語り、セミナーを締めくくりました。
テクノロジー発展の変遷を刺激剤としたアイデア開発プログラム「Technology Sign Ideation Work」
今回のセミナーは、24年7月にリリースした二社共同の新サービス「テクノロジー発展の変遷を刺激剤とした アイデア開発プログラム “Technology Sign Ideation Work”」(詳細こちら)の起源にもなった、BASSDRUMが独自でおこなってきた“テクノロジートレンドリサーチ”を体験してもらうセミナーとして開催いたしました。