「外部CTO」とは何か
BASSDRUMでは毎月、内外のテクニカルディレクターやエンジニアのみなさんが集まって情報交換をする「総会」という催しをやっています。回を重ねるごとに来てくださる方も増えていて、職能コミュニティという考え方も徐々に板についてきた気がします(2月には、公開イベントとしての「公開総会」もやってみました)。
5月の総会にも、何人かの新しい参加者が来て頂いて、活動紹介などを行っていただきました。
学術知財の新しい活用など、すごく面白いトライをされているKonelさんの話は参加者みんなすごく刺激を頂いたとともに、Konelの皆様もBASSDRUMの総会に参加することでいろいろ持ち帰って頂けたらしく、お互いにとても良い形で刺激しあえた感がありました。
そして数日もおかずにKonelの出村さんがnoteで発表されたのがこの「フィジビリティは有料化すべき」と題された記事です。BASSDRUMにも言及して頂いていますが、ここに書いてあることは、ある種私たちがわかりやすい形で言語化をしていなかったところで、仕事でテクノロジーに関わる人たち(今日び、関わらない人はそんなにいないと思うが)全員に読んで頂きたい記事です。
BASSDRUMは、会社でもありつつ、様々なテクニカルディレクターが参加する職能コミュニティなわけですが、コミュニティの中でもこの記事の話題はとても盛り上がっていて、ここに書かれている「テクニカルディレクションのサブスクリプション(顧問契約)」は、私たちの仕事を広げる上でとても大事な切り口だよね、ということで、折角なのでこの議論を対談企画にしてみよう、ということになりました。
「テクニカルディレクションのサブスクリプション」、つまりそれは「外部CTOの派遣」ということにもなります。この「外部CTO」をテーマにして、BASSDRUMの言い出しっぺである清水がファシリテーターになって、実際に外部CTOとしても活動しているSaqooshaさん、メディアアート作品などを中心に様々なチームのテクノロジー部門をリードしているsiroの松山さん、最近はテクニカルディレクション視点からのプロジェクトマネジメントについての記事も書かれているマニュファクチュアの泉田さんのBASSDRUMメンバー4人で、いろいろ議論してみました。
最後に、この「外部CTO」的なお仕事の募集も行っています。長くなりますが、是非ご一読ください。
清水幹太 / テクニカルディレクター
東京都生まれ。東京大学法学部中退。バーテンダー・トロンボーン吹き・DTPオペレーター・デザイナーなどを経て、独学でプログラムを学んでプログラマーに。2005年12月より株式会社イメージソース/ノングリッドに参加し、本格的にインタラクティブ制作に転身、クリエイティブ・ディレクター / テクニカル・ディレクターとしてウェブサイトからデジタルサイネージまで様々なフィールドに渡るコンテンツ企画・制作に関わる。2011年4月より株式会社PARTYチーフ・テクノロジー・オフィサーに就任。2013年9月、PARTY NYを設立。2018年、テクニカルディレクター・コレクティブ「BASSDRUM」を設立。
清水(以下Q)「そんなわけで、今日はお集まり頂き、ありがとうございます。今回はみんなKonelさんの記事を読んで、『いいなーこれ』ということで集まったわけなんですが、私たちとしてはこういう動きをきちんとキャッチアップして横展開してカルチャーにしていければ良いよね、ということで、今日はそういう意味で風呂敷を広げようぜ、ということになります。」
松山(以下M)「はい。そして自分たちもそういう仕事をもっとやりたい(笑)」
松山真也 / テクニカルディレクター
アナログとデジタルのいいとこ取りをするようなものづくりを得意とするクリエイター。「便利のためのテクノロジー」ではなく、「わくわくするためのテクノロジー」の可能性を追求している。フルスタックエンジニア、デザイナー、アーティスト。フリーランス活動を経て2015年にsiroを設立。
Q「はい。といいつつ、ここにいる人たちは各々、既にそういう仕事をやっていて、経験もあるということなのですが、SaqooshaさんはWhatever(https://whatever.co/)のFounderでCTOをやりつつ、Lyric SpeakerをつくっているCOTODAMA(https://lyric-speaker.com/)のCTOを兼任していますよね」
Saqoosha(以下S)「COTODAMAっていうのはLyric Speakerを中心に、歌詞のビジュアライズを様々な形で展開する事業会社です。僕は、もともとLyric Speakerがプロダクトプロトタイプだった段階で、実際に量産含めた商品としての実装をどうにかする、というところから関わってきて、その流れでずっとこの事業のテクニカルをリードしている感じですね。」
Saqoosha / テクニカルディレクター
テクニカルディレクター・クマをかぶったプログラマーとして、Flash, JavaScript, openFrameworks, Unity などのフロントエンドのプログラミング技術を中心に、さまざまなソフトウェア・ハードウェア技術を巧みに用いて、クライアントやクリエティブディレクターの無理難題を解決する仕事に携わっている。
2014年4月、より幅広い分野の才能とのコラボレーションを求めて dot by dot inc. を設立。並行して、2018年よりテクニカルディレクター・コレクティブ「BASSDRUM」に参画。
Q「わかります。私も今外部CTOとして参加しているスタートアップがあるんですが、やはりそれも、関連するプロジェクトをどうにかローンチさせて信頼を得てからの流れでそうなっています。一緒に修羅場をくぐると、仲間にしてもらえるというか、そういうのはありますよね(笑)。Saqooshaさんは、COTODAMAの創業メンバーにも近いですが、会社の方向性なんかにもコミットしてるんですか?」
S「いや、そんなことはなくって、COTODAMAがやりたいことが日々生まれる中で、技術的に『こうするといいよね』みたいに技術的なソリューションを出し続けている感じですね。『どう実現するかをいつでも聞ける人』です。」
Q「そうそう。『いつでも聞ける』っていうのは、『外部CTO』の役割としてはでかい。BASSDRUMとしても、CTOとまで言わなくても、常にSlackで顧問先からの質問を受けて技術的な質問にどんどん答える、みたいなコンサルティングの形はできつつありますね。かかりつけの医者とか顧問弁護士みたいに、『いつでも技術的な質問ができる』という機能は、今の世の中すごい重要だよな、と思っています。開発チームのチームビルディングとかはやらないんですか?」
S「僕の場合はやってないですね。どちらかというと、いろんな開発者が共同作業できるようなフォーマットづくりはやるけど、テクニカルプロデュースみたいなことはやってないです。契約上、自分の全業務時間の◯◯%をCOTODAMAのために使う、みたいな感じになってます。その中で、日々生まれるアイデアにアドバイスしたり、そういう開発上の整備をやったり、あるいは自分で開発作業をやったり、みたいな感じです。」
泉田隆介 / テクニカルディレクター
大学卒業後、大手メーカー系グループ会社に入社。光学ドライブやゲームコントローラなどのファームウェア開発を経験する。
2013年に広告制作業に転向し、株式会社ソニックジャム、株式会社BIRDMANに所属。体験型コンテンツのソフトウェア/ハードウェア制作やテクニカルディレクションなどを担当。
2018年より独立し「マニュファクチュア」という屋号で活動中。それまで通り広告制作にも携わる傍ら、これまでの経験を生かし、既存企業の新規事業プロジェクトやスタートアップ企業に向けたハードウェアプロダクトのプロトタイピング/開発支援も行っている。
泉田(以下I)「なるほど、事業によりますが会社によっては、技術絡みの仕事が生まれ続けるから、技術を全部アウトソースしちゃうと効率が悪い。ところが、じゃあ新卒の見習いプログラマーを10人入れても、今度はその人たちを動かせない。じゃあ、Saqooshaの時間を◯◯%『買って』、プロジェクトをリードしてもらったほうが安い、っていうことになりますよね。」
S「テクニカルの仕事はそっちのほうがうまく行くこと多いですね。」
Q「テクノロジーはどんどん変わるから、偏った要素技術の担当者を中に抱えるのはリスクにもなりますよね。昔だったらFlash全盛の頃は、Flashのエンジニアをいろんな会社が抱えていたけど、一瞬にしてFlashの仕事がなくなって、Flashしかできない人材が不良債権化しちゃうようなことが起こっていました。そんなこともあるから、いろんな技術をハンドリングできる軸になる人=CTOを捕まえておいて、テクニカルの人材はいろんなパートナーとできるように流動性を担保しておく、なんていうやりかたが良いよね、という説もある。松山さんはどうですか?」
M「自分の場合は、映像制作会社のTANGRAMさんの外部CTOをやっています。映像制作会社といっても展示案件なんかもあるし、いろいろやっているから、しょっちゅう一緒にやっています。we+さんなんかとも同じようなスタイルでお仕事しています。企画段階からフィージビリティの相談に乗りつつ、自分の場合はチームビルディングから最終的な実装まで監督することが多いです。共通して言えるのは、気づけば、基本的には同じメンバーで仕事をやっているということですね。」
I「効率が良いんですよね。この場合、松山さんはいつも一緒にやっているからチームのノリや目指すものの勘所がわかっている。突き詰めると、外部CTOみたいな形で、常に話が通じる、説明が最小限で済む相手と一緒にやっていると結果的にローコストで済むということにもなる。新しい人と新しいことをやるのは基本的にはコストがかさむ、っていうことですね。」
M「あとは、プロジェクトによっては、デバッグチームとかも含めて、分業して大きなものをつくっていかないといけない場合がある。そういうときに人を集めたりするのも(外部)CTOの仕事になるかもですね。」
Q「CTOやテクニカルディレクターの向こうには開発チームがいて、プロジェクトの要請に応じて最適なチームを組んでくれる。流動性のハブになれるところがありますね。個人のエンジニアと直接仕事をしているとそうも行かない。泉田さんは、最近テクニカルディレクター視点からのプロジェクトマネジメントについての記事を書かれていますけど、そのへんどうなんですか?」
I「自分は独立して日も浅い(1年半)ので、『CTO』という具体的な肩書ではないのですが、やはりスタートアップのアドバイザリーとして仕事したりはしてきました。事業の立ち上げ段階で技術者がいないところに、いろいろアドバイスしたり、技術者を紹介したり。誰にどういう切り口で相談すれば良いのかわからない。そういうときに気軽に相談できる立場としてそこにいる、みたいな立場ですね。こういう相手とやる場合はこういう形で進めたほうがいいよ、とか。そんなアドバイスもしたりして。」
M「やはり『いつでも聞ける』ってことですよね。完全に外注な相手だと、まだ契約してないとか、そもそも契約範囲内なのか、みたいなところで気軽に何でも聞けるわけではないところ、技術顧問的に誰かいると、いつでもなんでも聞ける、ということにはなる。」
I「何かやらなくてはいけない技術的な問題が出てきたときに、どうしていいかわからない。自分たちではカバーができない。たとえばお店をつくるときに、電気工事の人とちゃんと話ができない、みたいなケースでも、自分たちが調整役で出ていくと、どうにかなったりする。何から手をつければよいのかわからない人たちの助けになれるんです。」
Q「テクニカルディレクションって、まさに『どうつくればいいか』を知っている役割なので、すごくわかります。結構そういうポジションでお仕事させて頂くことは多いですね。といいつつ、技術と言っても結構いろんな領域があるから、自分ではわからないことなんかもあったりしますよね?」
I「ありますね。ただ、わからなくっても、どういうところと組むべきか、みたいな目利きまでは勘所が身についているので、そのへんの橋渡しはできるんですよね。あとは、そういうときのために、いろんな人がいるBASSDRUMに所属しているというのもありますね(笑)。」
Q「このへんでちょっと思ったんですけど、私たちはいま『外部CTO』というテーマで話をしているんですけど、『外部CTO』って『外部』の人なんですかね『内部』の人なんですかね?」
S「『内部』ですよね。COTODAMAもそうだけど、プロジェクト単位ではなくて、時間でコミットしているから、その時間の範囲内で、『内部』の人として頼りにしてもらえる。」
I「それもあるけど、プロトタイプ開発みたいにスピーディにやらなくちゃいけない作業をやるのに、いちいちプロジェクトベースで契約していると、スケジュールや予算やら条件やら、いろいろあって仕事を始めるまでに時間がかかっちゃって本末転倒なことがあるんです。そういう意味で、仕事の発生の仕方や内容によっては、サブスクリプションで『時間』で参加したほうが効率が良い場合が多々ありますね。」
M「結構昔に、仕事の進め方の話で『ウォーターフォール型』VS『アジャイル型』みたいな議論があったけど、アジャイルにいろいろやっていくためには、当然一緒にアジャイルで動ける技術担当が必要になるんですよね。契約している時間の中で、いかにそれを活かせるかは雇う側次第ですね。やりようによっては無駄も少なくできます。」
Q「テクニカルディレクターがいつも隣りにいると、事業もプロジェクトも健康になるよ、無駄が少なくなるよ、最強だよ、っていうことですね。BASSDRUMを始めたのが去年(2018年)なんですが、結構そういうお仕事はさせて頂いていて、やっている方もまあこれは『クライアントと並走するのって、こんな楽しいのか』というのは実感しています。」
M「なので、そういう仕事にもっとチャレンジしたいんです。泉田さんと僕は一緒にやることも多いんですけど、2人で組んで、一緒に外部CTOとしてパートナーを募集してみようかなと思っていて。」
I「松山さんはアートのフィールドで、アートや表現を技術に変換してきた人です。僕は僕で、現場での全体の進行とか、プロジェクトマネジメント寄りのこともできます。この2人で『外部CTO』として動くと、いい仕事できるんじゃないかと思ってます。」
Q「お2人ともBASSDRUMの一員ですし、最初に言ったように、Konelさんも含めてこういうカルチャーを広げたくてやっているので、BASSDRUM全体としてもバックアップしていきたいと思います。そんなわけで、松山さんと泉田さんの方ではまず、2人セットで2社限定で、顧問先を募集、ということで、2人からも各々募集に掛ける思いみたいのがあると思うので、↓の記事と併せて読んで頂いて、ご検討ください。」
Q「お問い合わせは、各々に直接でも良いですし、BASSDRUM( hello@bassdrum.org )にお問い合わせ頂いても結構です。ちょっと複雑なんですが、BASSDRUMの他のメンバーもそういったお仕事があれば常にお手伝いしたいので、そちらも気軽にお声がけください。そっちはそっちで!」
以上、「Konelさんの募集みたいのいいよね!」から始まった数時間に及ぶディスカッションでしたが、「いつでも聞ける」「アジャイル型の」 「柔軟性がある」スタイルであるといえる「外部CTO」という形は、広がれば広がるほど世の中がよくなる可能性を持った形だと私たちは考えています。是非、私たちテクニカルディレクターをプロジェクトに巻き込んでください。きっと、プロジェクトが何倍も面白くなること請け合いです。