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テクニカルディレクターによる未公開プロトタイプ展 「SEEDS」|EVENT REPORT①

2024年7月24日から26日までの3日間、乃木坂にあるNew Stand Tokyo Galleryにて、ベースドラムのテクニカルディレクターによる展示会を開催しました。

「SEEDS — 未公開プロトタイプ展」では、私たちが日々研究開発している「まだ用途が決まっていない実験的な試作品」、いわゆるプロトタイプを展示しました。
ベースドラムとして初めての試みだったこともあり、少し緊張しながら当日を迎えましたが、連日予想を上回る多くの方々にご来場いただくことができました。

本記事では、SEEDS展でご紹介したプロトタイプの数々を振り返ります。
少しでも開発者の熱意やプロトタイプの面白さを感じていただけると嬉しいです。



シューティングゲーム カスタマイズシステム(β版)

キャラクターイベントの巡回展やアミューズメント施設など、多様なシチュエーションで活用できる「シューティングゲーム カスタマイズシステム(β版)」。このゲームシステムは、管理画面上からゲームの世界観やキャラクターを簡単にカスタマイズできるのが特徴です。
普段からアミューズメント施設などのプロジェクトに携わることの多いテクニカルディレクター(以下、TD)の長洞とプロデューサーの北原。「特定のキャラクターを活用したゲームをつくりたい」というご相談を受ける中で、ゲームシステムを共通化し、世界観やキャラクターをカスタマイズできるようにすることで、ゲームをゼロから作るよりも低予算でさまざまなキャラクターの体験を提供できるのでは、と思いβ版の開発に至ったとのこと。
会期中、子供も大人も夢中になってゲームを体験している様子が印象的でした。

管理画面上からワンクリックでゲームの世界観やキャラクターの設定変更ができます



ミニチュアバーチャルプロダクション

小さな仮想空間撮影の可能性を探る「ミニチュアバーチャルプロダクション」。
「バーチャルプロダクション」とは、セットの背景に仮想空間の映像を映し出し、実物の被写体と組み合わせて映像を制作する環境のことを指します。通常、セットを組むには大掛かりな準備が必要ですが、私たちはこれをフィギュアやプラモデルレベルのミニチュアサイズに落とし込む実験を行いました。これにより、スペースを取らずに奥行きのある表現と物語性のある撮影を実現することができます。
SEEDS展では、木彫人形によるストップモーション時代劇『HIDARI』のセットをお借りし、来場者にまるで物語のワンシーンを撮影しているかのような感覚を味わっていただきました。

視点を自由に動かして、カメラワークを体験



映像解析AIを用いたスイムフォーム解析システム

映像からリアルタイムに骨格を検出し、人の動きや姿勢を推定することができる「ボーン検出AI」。TDの尾高は、この技術を用いて水泳のフォームを解析するシステムのプロトタイプを開発しました。
システムに組み込まれているAIは、2Dの映像から3Dのフォームを推定することができ、泳ぎの映像からストロークの軌道や水中姿勢などを可視化します。尾高自身が、幼少期から社会人になった今も水泳を続けており「技術の力を使って次世代の水泳選手の役に立ちたい」という熱い思いを持っています。今後は撮影手法の改善やAIの精度向上を通して、将来的にはスイマーのフォーム改善に利用できるシステムを目指します。

一般的なWebカメラから骨格を検出している様子


ドラミーのアイデア☆ファクトリー

AIの力を借りながらアイデアがかたちになっていく過程を体感できる、ChatGPTを用いたプロトタイプです。
ベースドラム公式キャラクター「ドラミー」の質問に回答していくと、アイデアが具体化され、最後にはテーマに沿った企画書が生成されます。さらに、「アイデアにぴったりなテクニカルディレクターを提案してくれる機能」や「立体ディスプレイに映し出されたドラミーが、アイデアに対して相槌を打ったり、飛び跳ねたり、リアクションしてくれる機能」も実装。チームでなかなか良い企画が生まれない…という実際の悩みから生まれたものだそうです。ドラミーが作った企画が実現する日がたのしみですね。

生成されたアイデアの一例


人間とAIの心地よいコミュニケーションを探るデモ

ベースドラム京都(通称:出町ガジェット)チームは、「AIは人間とどのように協働できるのか?」を日々実験してきました。今回はAIを「駄菓子店のスタッフ」、「ラジオドラマの制作チームの一員」、「ライブストリーマー」に見立て、その様子をさまざまな形式で展示。「駄菓子店のスタッフ」であるAIは、会場で販売している駄菓子の合計金額を京都弁で教えてくれ、「ライブストリーマー」であるAIは、人間不在のライブ配信をTwitch上で行いました。AIによる「便利な暮らし」を目指すのではなく、「クリエイションが身近な暮らし」を目指した京都チームらしい展示です。

駄菓子店のスタッフをつとめるAIは、京都弁で話をしてくれる
AIラジオディレクターがAIパーソナリティーにトークテーマを指示している様子をロボットアームを使って演出



回転式LED光源制御実験システム

回転式LEDバーが連続稼働にどこまで耐えられるのか?も含めて実験

インスタレーションや空間演出を手がけるTDの池田が開発したのは「回転式LED光源制御実験システム」。
既存のハードウェアである「回転式LEDバー」と、TouchDesignerを用いた「基本的な制御技術」を組み合わせることで、技術の新しい活用方法を模索し、イベント演出や視覚表現など様々な分野での応用可能性を探ったプロトタイプです。会期中は、「回転式LEDバー」の耐久性も含め総合的な実験を行いました。
このように、新しい技術を組み合わせることで得られた知見や、日常的に新しい技術をキャッチアップするという過程が日々のテクニカルディレクションに役立っています。


state

SEEDS展専用のアカウントで実際のサービスを体験

他の人と競争する必要もなく、炎上することもない、ヒエラルキーを徹底排除した新しいソーシャルネットワークサービス「state」。代表の清水が、コンセプトから設計・デザイン・実装までの全行程を自ら手掛けました。最新の投稿しか見えない、フォローはできるが、フォロワー数は表示されない等々、新しいSNS体験が可能です。会期中は、SEEDS展専用のアカウントで実際のサービスを体験していただき、多くの方がその場で招待コードをリクエストしていました。

【▼招待コードのリクエストは下記を参照ください】


3Dプリント・パフォーマンステスト

TDの伊藤が展示したのは、3Dプリンターを使ったパフォーマンステストの数々。美しい形状の花瓶や月などは、伊藤が3Dプリンターの耐久テストやパラメーター調整のために出力したものです。来場者には実物を手に取っていただきながら、3Dプリンターならではの質感や風合いなどを感じていただきました。
会場の中央に浮かぶ「月」に触れてみると、表面の繊細な凹凸やざらつきまでが再現されています。この「月」は、3Dプリンターのストレージの故障検出と解消確認のために、あえて高精細で大きなデータを用いていることから、出力に59時間ほどかかったそうです。

3色混合のフィラメント(材料)を使ったプレート。見る角度によって色が変化する



終わりに

みなさまとの出会いをきっかけに、プロトタイプが芽吹いていくことを願い開催した「SEEDS展」。ご来場いただいた方々から多くのご感想をお寄せいただいたことで、これらのプロトタイプを芽吹かせるためのたくさんのヒントを得ることができ、また、つくる喜びを感じられる機会となりました。


続くEVENT REPORT②では、展示会と併せて開催したオープニングトークイベントについてレポートします。




なお、それぞれの展示物についてもっと詳しく話を聞いてみたい、という方はhello@bassdrum.orgよりお気軽にお問い合わせくださいませ。

◼︎制作クレジット(あいうえお順)
SEEDS展ディレクター:
中田 拓馬

シューティングゲーム カスタマイズシステム(β版):
北原 妙子長洞 龍生

ミニチュアバーチャルプロダクション:
泉田 隆介北原 妙子小川 恭平 ,  清水 幹太 , 中田 拓馬 , 長洞 龍生 , 村山 健 , 森岡 東洋志 
ストップモーション演出・撮影 :『HIDARI』プロジェクト

ドラミーのアイデア☆ファクトリー:
小川 恭平 , 公文 悠人小松 真朗 , 張 釗 , 鳴海 侑希 , 真辺 浩二 , 松本 和紗

映像解析AIを用いたスイムフォーム解析システム:
尾高 陽太

人間とAIの心地よいコミュニケーションを探るデモ:
北原 妙子公文 悠人 , 毛原 大樹 , 小松 真朗 , Huinee Lim , 真辺 浩二 , 福井 彩加

回転式LED光源制御実験システム:
池田 航成

state:
清水 幹太

3Dプリント・パフォーマンステスト:
伊藤 潤 , 安中 勇貴


撮影:青山航
文章:福井彩加 & ChatGPT
校正:磯崎 智恵美


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