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B2H(BASSDRUM 2 HAKUHODO)

「働き方改革」の前に「つくり方改革」

広告を中心とした「商業企画・制作業界」は、今や、常に意識しなければいけない題目となっている「働き方」問題の台風の目としてここ数年の注目を集めてきたといえます。テクニカルディレクターの集合体であるBASSDRUMも当然それと無関係ではありません。

BASSDRUMの言い出しっぺである清水幹太は、もともとはデジタル広告の制作会社からキャリアを初めて、広告のクリエイティブブティックで広告のクリエイティブディレクターとして働いていました。東京でのBASSDRUMの活動をリードしている鍛治屋敷は、もともとは広告代理店でストラテジーやマーケティングを担当していて、その後プログラマー・テクニカルディレクターに転身したという珍種です。この2人だけではなく、BASSDRUMのメンバーは何らかの形で広告をはじめとした商業クリエイティブには関わってきています。BASSDRUMの人々は、なかなかにタフな制作文化がある商業クリエイティブの世界での経験を様々な領域に拡張して役立てているともいえます。

そしてそんなタフな制作・開発文化の中で揉まれてきたからこそ、「これは果たして『働き方』の問題なのか」という疑問を持ってしまうことがあります。商業クリエイティブの仕事は、〆切までにものをつくり、納品するということが基本のルールになります。そのルールの中でできる限り良いものをつくりたい、そんな思いが、無茶な「働き方」につながってきた部分があります。しかし、「働き方改革」で作業時間を削って結果としてつくるもののクオリティが下がってしまったら、それはそれで困ったことになります。それはつまり、既存の「つくり方」では良いものがつくれない状況ということ。すなわち、私たちつくり手にとって、「働き方改革」の前に必要なのは、「つくり方改革」なのであると私たちは考えます。

そして、現代において「つくり方改革」の核となるのは、私たちテクニカルディレクターなのです。アイデアやコンセプトを技術仕様やプログラミング言語に翻訳し、考える人たちと手を動かす人たちのモチベーションをつなげていく。私たちが介在することでより効率よく、より良いものをつくることができる。そんな「触媒」としての役割を果たす中で、BASSDRUMは様々な「つくり方」の実験を行っています。

そんな中の最新の「実験」が、先日BASSDRUMが博報堂MSC(HMSC)( https://hmarsys.jp/ )と共同で開催した「B2H」です。

「習慣のクリエイティブ」をつくる

HMSCさんは、博報堂が長年培ってきたクリエイティビティを活かし、日本企業の事業成長に貢献するためにつくられた新しい専門組織。事業コンサルタント、データアナリスト、システムエンジニア、UXプランナー、デザイナー、プロジェクトマネージャーといった多様な職能のワンチームでマーケティングの構想から実装までやり切る、という新しい考え方のチームです。博報堂さんという「広告代理店」、ともすれば沢山のプロジェクトを短期集中でどんどん世に出して話題にしていくことに寄りがちな枠組みの中にありつつ、HMSCチームが取り組んでいるのは新しいクリエイティブの形です。

短期の間に大きな話題をつくり、瞬間風速を最大出力でつくり出すタイプの既存のクリエイティブ・「感動のクリエイティブ」に対して、もっと生活者の中に入って、クライアント企業と並走する形でサステナブルなサービス・仕組みをもとにして「習慣のクリエイティブ」をつくる。それがHMSCチームが標榜する新しい形のクリエイティブです。

そんな新しいクリエイティブを形にしていくとき、1つはっきりしているのは、そのために「新しいつくり方」が必要であるということです。今までの「短期勝負」の中では、1つの指示系統の中での業務分担が必要とされてきました。それはたとえば、クライアント企業→広告代理店→制作会社という受発注関係の中での厳格な指示系統システムでした。短期でものをつくる上ではある種、有効な仕組みであると言えます。

一方で、「習慣のクリエイティブ」をつくるとき、「運営」も「立案」も「制作・開発」も、チーム全員が長期間に渡って並走していく必要があります。厳格な指示系統システムというよりは、一緒に考えて、一緒にソリューションを目指す。そういう「並走型」の「新しいつくり方」を導入して、良い成果物を長期的に提供していくことで初めて、もう1つの並走者、すなわち「ユーザー」がついてきてくれる。そんな考えから、HMSCチームとBASSDRUMチームは、将来的な並走に向かって、共に「新しいつくり方・新しいパートナーシップ」についての議論を重ねてきました。

「習慣のクリエイティブ」には、戦略が必要、分析が必要、そしてテクノロジーが必要、ということで、お互いがしっかりとしたパートナーシップを築くことができれば、他にない強いチームで、強い「習慣のクリエイティブ」をつくることができるはずである、と考えつつも、そこはお互いが違う世界で違う知見でやってきた者同士、「一緒にやろう!」と言ってもまずはどう一緒にやるのか見えてこない。

「仲間」になるための「教え合い」

そんなときに、「これをやったら何か始まるのではないか」と考えて企画したのが「B2H」です。

「企画」といっても、大元のアイデアは、G2G、Googler2Googler、すなわち、Google社が運用している、「社員が先生になって生徒になる」社内教育システムです。言わずもがな、Googleにはいろいろな職能の人々がおり、たとえばプログラマーがプログラムを教えてくれたり、デザイナーがデザインを教えてくれたり、業種横断的なコミュニケーション・エデュケーションの仕組みとしてG2Gが運用されてきました。

そして、そのG2Gに影響を受けて、デザイン・イノベーション・ファームであるTakramが義務化の形で始めた取り組みが「T2T」です。「T2T」については、Takram代表の田川さんとTakramの趙さんが下記のポッドキャストでお話されています。非常に参考になる話ばかりです。やはりここでも、業種を横断した知識の共有がうまく機能しているようです。

きっかけは、ここでお話されている田川さんからBASSDRUMの清水と鍛治屋敷が飲み会の席でこの「T2T」がいかに良いか、についてお聞きしたことでした。とはいえ、BASSDRUMはテクニカルディレクターばかりのチーム、知識の共有はともすれば、技術的な知見に限られることになります。そんなとき考えたのが、この「T2T」の仕組みは、別業種の会社間で、スタッフを横断して行うことができたら、業種横断のパートナーシップをつくる上で非常に有効な手段になるのではないか、ということです。

そんな考えから急遽実現したのが、「BASSDRUM 2 HAKUHODO」すなわち「B2H」。本来は、H2Bでもあるので、「B2H2B」かもしれないのですが、語呂も悪いので「B2H」となりました。

HMSCのメンバーには、マーケティング視点のクリエイティブの考え方について、データドリブンの広告出稿についてなど、BASSDRUMメンバーが全く触ってこなかった領域について、わかりやすく説明していただきます。

BASSDRUMのメンバーからは、「Firebaseでサーバにデータを保存する」「ArduinoでLEDを光らせる」「Touch DesignerでVJシステムをつくる」といった、技術系のワークショップをHMSCチームに対して行います。もちろん、短時間ではこういった細かい要素技術をマスターすることはできません。なので、触りだけ、つまり、エンジニアやプログラマーが常にカタルシスとして持っている「動いた!」「光った!」という刹那的な喜びをHMSCの皆さんに理解して頂きたかったのです。

お互いに、そういった「自分たちの領域での仕事の喜び」を共有するところから始めて、お互いがお互いをリスペクトできる、会社を横断した「仲間」をつくる。そのきっかけをつくる。それを目指して、HMSCから10人、BASSDRUMからは6人、シニアからジュニアまで、同じテーブルを囲んで、2日間の「教え合いイベント」を開催しました。

お互い不慣れなので、想定以上に時間がかかってしまったところもありましたが、お互いに、「脳に良い汗をかいた」というしかない刺激的な「グルーヴ感の共有」を行うことができました。このチームワークから、きっとより良い「習慣のクリエイティブ」の芽が出るのではないか、そんな期待感を抱かせる濃密な時間となりました。

「つくり方改革」の芽が生まれた2日間

今までは、受発注の関係だったエージェンシーとプロダクション、どうしても距離があったクリエイティブとテクノロジー、そういった既存の関係や距離を超えた新しいパートナーシップの芽が、「B2H」の2日間で生まれました。

HMSCとBASSDRUMの具体的なパートナーシップは、これをきっかけに今後も進んでいきますが、急ぐことなく、こういった交流を重ねた上で、より強く、今までにないパートナーシップを築き、ひいては「つくり方改革」の旗手となる新しいチームとなることを目指していきたいと思います。

これからB2Hを皮切りにこのチームがチャレンジしていく「習慣のクリエイティブ」。いつの間にかユーザーのそばにいるような、いつの間にかみんなが使っているような、生活の中に、生活に寄り添うものをつくることを目指して活動していきます。B2Hの活動は、折に触れてBASSDRUMからも発信をしていきます。ご期待下さい。

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