見出し画像

clubhouseに近いものをつくってた話

突然何を言い出すんだこいつはと思われるかもしれないが、私は2003年くらいにTwitterと全く同じようなサービスを思いついていた。

デジタルっぽい仕事をやりだす前で、まだマガジンハウスに通って雑誌のDTPをやっていた頃だ。人々が自分のアカウントをもって、自分が今何をしているのか、というステータスを表示できる。知り合いとつながることができて、その人たちのステータスが一覧できる(つまり、フォローだ。)、シンプルに「今どこで何してますよ!」ということを知ることができるようなサービス。そんなのがあったら結構みんな使うんじゃないかと思っていた。

当時の私は自分でプログラミングなんてできなかったので、同じサークルで、プログラミングっぽいものを専攻してそういうのができるようになっていた岩下くんに、「こういうの思いついたんだけど一緒につくんない?」と話したこともある。自分はデザインをやるつもりだった。この岩下が、私がTwitterを思いついていたことの証人だ! などと思うが、絶対に岩下は忘れているので、もはや証人はいないのだろうと思う。しかし、どう考えても、あのとき思いついていたものはTwitterだ。

あのとき、岩下くんにもう少しゴリッと頭を下げて作り出していたら、あるいはもう数年早くプログラミングの道に入っていたら、何にせよ、ちゃんと形にすることができていたら、ジャック・ドーシーは私だったのかもしれない。と言いつつ、いま、そんなにジャック・ドーシーになりたいとも思わないけど。大変そうだし。

なんだっていうのかと言うと、よく言われることでもあったりするが、思いつくんですよ。アイデアなんていうものは。なんかすごいアイデアを思いついたとしても、それは世界の中で10000人くらいが思いついていることだ、なんていうことも言われる。

当時、Twitter めいたものをイメージしていたのは何も私やジャック・ドーシーだけじゃなくって、たぶんわんさかいたはずなのだ。その中でちゃんと形にしてアップデートしてグロースして、ということをやったのがジャック・ドーシーだったわけで、誰が思いつこうがなんだろうが、ちゃんと形にしてサービスインしているジャックさんが偉いのだ。アイデアは必要だけど、形にして、人に使ってもらってこそのアイデアなのだ。自動運転なんてその最たるもので、誰でもわかりやすく思いつくようなアイデアだけど、何が大変って実現して普及させるのが大変なのだ。

ゆえに、その後もちょこちょこ「これ考えてたのにやられたー!」なんていう悔しい経験はある。作り手のはしくれなので、逆に、誰かに「やられたー!」と思われたこともあるのかもしれない。

で、いま話題の音声会話共有プラットフォーム「clubhouse」だ。私の周囲には耳の早い方がたくさんいらっしゃるので、皆さんこぞって参加されているが、今のところこのアプリは招待制だ。私もやってみたいなーと思って招待リストに申請してみたが、そしたらすぐに、既に使っている友人が招待して入れてくれた。

そのうち普及すると思うので適当に説明すると、これは、「人が会話してるのを聴ける」かつ、「自分たちが会話してるのを人に晒せる」というサービスだ。ユーザー同士でフォローする概念もある。フォローしている人が会話を始めたりすると、プッシュ通知が飛んできたりする。

一通り体験してみて、笑ってしまった。

この「clubhouse」、やってることが数年前に開発した「MICD」というアプリにとても良く似ているというか、機能的にはだいたい同じなのだ。念のため言っておくが、別に「パクられた!」とかそういうような話をしたいんじゃなくて、MICDはclubhouseつくった人の目には触れていないような気がするし、ただ、笑っちゃうほど同じだったという話だ。

画像2

スクリーンショット 2021-01-27 16.47.16

どのくらい同じだったか。下記に列記していく。

・音声を配信できる。不特定多数のリスナーがそれを聴ける。

・音声配信に友人を招待できる。つまり会話を配信できる。

・co-hostという概念もある。そのうえで、リスナーという概念がある。

・配信予約ができる。何日の何時何分に誰と一緒に配信をやるよ! みたいなのを設定できる。

・配信予定時間になるとプッシュ通知がくる。

・リスナーを会話に招待して会話に参加させることができた。

・フォローしたりされたりできる。

・フォローしている人が配信を始めるとプッシュ通知が来る。

・トピックを設定できる。

・最初はiOS限定。

・招待制のシステムもつくった。

という、これだけの共通点がある。「知ってるよこれ、知ってる」という感じだ。このアプリ、一度はAppStoreでローンチしていて、ちょこちょこユーザーもついていた。さっきのTwitterの話と違って、アイデア止まりではなく、ちゃんとつくっていたのだ。

実はまだウェブサイトを残している。いくつか操作画面のキャプチャもあるので貼ってみる。

しかし、これだけ多くの共通点がある中、唯一にして最大の違う点があって、それは、MICDが「バスケットボールの試合を実況中継する」というところに特化していたというところだ。clubhouseはもっと全然抽象的な音声コミュニケーションサービスだが、MICDは、あくまで「バスケ実況アプリ」だった。

離れた場所にいる友人がアプリにアクセスして実況部屋をつくる。同じ試合を見ながら一緒に盛り上がる、という体験だ。なので、開催中の試合とスコアがリアルタイムに表示されていて、配信を始めるときも、「この試合について話す!」ということで試合リストから試合を選択して実況をするという形になっている。バスケ中心だ。

しかし実は、上記の画面収録(なんか年齢制限かかっててyoutubeに飛ばないと見れない)にもあるように「Shootaround」という、「別に試合以外のことでも何でも配信していいよ」というフリーコーナーをちゃんとつくっていて、clubhouseは、この「Shootaround」コーナーだけを独立させたような感じの体験になっている。

この「MICD」、何なのかというと、当時、KickstarterのCEOだった友人のYanceyに声をかけられて、「こういうの思いついたんだけど一緒に作らない?」ということで、開発者・テックリードとして参加したのだが、他にやる人もいなかったので、UX・UIの設計からシステム組んだりとかアプリつくるところまでだいたい全部やっていた。デザインは、同じくKickstarterのデザインリードだったZackがやっていた。なので、そこそこ本気度が高かった。サイドプロジェクトとはいえ、音頭を取っているのが世界的に著名なスタートアップの社長なのだ。そういう友人に、つくり手として頼りにしてもらえるのもありがたい話だった。

「これからは音声が来る!」というのは企画段階でかなり話していた。「みんなスマホを見ているときは、画面を見ている。しかし、今後は運転しながらとか勉強しながらとか、視覚が他に使われている時の聴覚を埋めるのもスマートフォンになっていく。」、つまり、ハンズフリーで「ながら」で楽しむ音声コンテンツというのはまだまだ未開の地で、いろんな可能性があるだろう、というのはチーム内の合意としてあった。さらに言うと、識字率が低い発展途上国とかだと、視覚情報のコンテンツより聴覚情報のコンテンツの重要性が増してくる。音声がデジタルのコミュニケーションの主役に、一周回って戻ってくるのは明らかだろうと思っていた。

私にはPARTY NYという自分の会社の仕事もあったので、1年ちょいかけてどうにか完成、リリースまでこぎつけた。

こういうプラットフォームをまともに運営していくには結構お金がかかる。プロダクトをアップデートするにも、そのためのリソースを確保しないとどうにもならない。何より、こういう音声配信・動画配信みたいなものだと、配信用のクラウドを利用するだけでも費用がバカにならないし、ユーザーが増えれば増えるほど固定費が増えていく。

ゆえに、自分たちには自己資金を投入してユーザーを増やしていくか、資金調達をするしかなかったのだが、バスケットボールに特化していたのも恐らくあり、そのへんがそんなにうまく行かなかった。資金調達ができなければこのプロジェクトに自分たちのリソースを突っ込み続けることもできないし、Yanceyは(今はもう辞めちゃって本とか書いてるけど)社長業があるし、私も自分の会社があるので、どうにもこのプロジェクトにフルコミットできないというのがあったので、一度サービスを休止して仕切り直すことにした。

というわけでこのサービスは「休止」状態なので何だったらまた始められるのだが、当時はアプリをObjective-Cで書いていたのでswiftで書き直したい気もするし、建て増し建て増しでコードが九龍城みたいになってたので、もしやるんだったら作り直したい気もする。

何が言いたいのかというと、冒頭に書いたように、アイデアは形にしないとしょうがないし、形にしたものは運用して育てないと花開かない、ということだ。こういうものは「とりあえずつくろう」というだけではなくて、その後、どのくらい息継ぎ(=資金調達)無しで行けるのか、どういう人員が必要で、どういうPRが必要で、と、その後のことをいろいろ考えておかないと、息切れも起こってしまう。

その点、clubhouseは、いろんな意味で文句をつけづらい現象になっているわけだから、いったん崖を登りきって一息つける、というところだろう。わかんないけど。

とはいえ、同じようなものをつくっていた立場から見ると、このサービスは、利用者が増えれば増えるほど運用費用が膨らむようなことになっているはずで、結構ガクブルしながらユーザーが増えるのを見ているのかもしれない。このへん、とてもスタートアップっぽい、しびれる状況なんだろうと思う。clubhouseは、会話の遅延も全然無いし、音が綺麗すぎて逆にデータ量とか大丈夫かなとか思うけど、そのへんとてもよくできているなあと思う。

Netflixで配信している韓国ドラマの「スタートアップ」は、文字通りテックスタートアップを絡めた恋愛青春ドラマだが、その中にも、主人公のチームがアプリをリリースしたものの、利用者が増えると運用費用が膨らんで倒産しちゃうので、CEOだけは「ユーザー増えないでくれ」と祈っていて、他のメンバーは無邪気にユーザー増えてほしいと願っている、みたいなエピソードが出てくるのだが、あれなんかは、よくわかってる人が話をつくってるなあと思う(劇中では結局、有名人がそのアプリをテレビで紹介してユーザーが爆増してしまう)。

というわけで、「MICD」はもしかしたら再スタートすることもあるかもしれないが、何はともあれ、もともとは広告とかのクリエイティブの技術領域をやっていた私のような人がいまは、いろんな創業や新規事業のお手伝いをできている、というのは、日本を出てニューヨークでこういうような経験をしてきた、というのが結構ある。

上述のように、アイデアよりもつくること、つくることよりも育てること、というのがスタートアップの大変なところでもありつつ、楽しいところで、もともと短期的な要件でファーストフードのようにクリエイティブをつくってきた身としては、こんなふうに「1つのスープを丁寧に煮込むのもめっちゃ楽しい」という感覚がとても新鮮で、このMICDの仕事以降、ものづくりに対する目線がかなり変わってしまった感がある。

何より、このMICDの開発は、そもそもとても楽しかったというのがあって、こういうような感じで「場」を考えてつくる作業にいろいろな形で関われたら幸せだなあと思うので、良いチャンスがあればBASSDRUMにお声がけを頂ければ幸いです。

と、ああだこうだ言いながら営業で終わったが、とりあえず一度clubhouseで配信してみたものの、「そもそも人と話すのがそんなに得意ではなかった」というのと「でかい口内炎ができてて痛かった」ということで、私自身は今後もそんなに使わないんだろうと思う。